京へ



夕方、古清水屋敷。


魔黒刀の封印されていた場所から帰ってきたわたしたちは、緊急に会議を開いた。


わたしは今日の出来事を同行していた三人はもちろん、ここに残っていた四人にも伝えた。


あと、蛛之坂劾に接触したことも。


わたしが話を終えると浅葱がふむと口を開いた。



「なるほど。私たちが親睦会をしている間にそのようなことが…」


「…は?親睦会?」



わたしは聞き捨てならない言葉を聞いて浅葱にそう返すと、浅葱ははて?何のことですか?と首を傾げた。


それに綴、雲雀、伊吹は黙って聞いている。


…まあ気のせいということにしよう。



「しっかし何だったんだろうな?ただ弓絃さんに会いに来ただけって」


「絶対何か企んでるよ」



青葉と朱莉は劾のことを振り返るとそう言い合った。


確かに劾はわたしの闇の力を欲しがってたのに、今日は弓絃に会いに来た。


どうしてだろう?


光の力が邪魔だと感じたから…?


わたしは一瞬そんなことが頭を過ぎったが、切り返し話を進める。



「とにかく。魔黒刀は奪われ、どうやって盗んだのか手がかりもなし。情報もなしじゃ八華の名折れよ。そこで今日屋敷で待機していた綴と雲雀、そして浅葱と伊吹には、明日京に行っていただきます」



わたしは今回の任務に綴と雲雀と浅葱と伊吹を指名した。


それに対して青葉は口を開く。



「京って…綴と雲雀の故郷じゃ…」



青葉はそう呟くと綴と雲雀を見た。


雲雀は一瞬驚いた顔をすると隣にいる綴を見た。


綴は表情一つ変えずにただわたしの話を聞いていた。



「そう。京は雪之丞家と風間家があるところ。今回は雪之丞家の方を訪れてもらいます」



わたしがそう言うと綴は無言で自分の手に力を込め始めた。


雲雀はそんな綴を心配そうに見た。



「雪之丞の家には魔黒刀の情報が記された本が倉庫があるの。雪之丞家は花姫の護衛を任される家計、古清水家との関わりも深いわ。だから魔黒刀に記された記述全てが雪之丞家にあるの」



雪之丞家の奥の部屋には倉庫があり、そこに魔黒刀に記された全てのことが記されている本がある。


魔黒刀の歴史や能力。


そのせいでどれだけの犠牲者が出たのかということも。



「何故、本を雪之丞家の蔵に移したのですか?」



浅葱は気になったことを一つわたしに問う。


たしかに魔黒刀のことは古清水家しか知らないなら、古清水家にあるのが妥当だろう。


わたしは浅葱の質問を返していく。



「何かあった時のために雪之丞家へ移し替えたのよ。魔黒刀=古清水家というのが妥当なわけだし、それを悪用する人もいると仮定してね。今回の件を思い返せば、京に移し替えたのが正解だったわね」



先代のご先祖様もなかなか頭の賢い方だったのだろう。


万が一に備えて重要な記述は古清水家に持ち込まない。


それが生前先代様の口癖だったとか。


わたしも見習わなきゃね。



「場所は綴が知ってるとは思うけど、一応綴のお父さんに許可をもらってから見てちょうだい」



わたしはそう言って綴と雲雀、そして浅葱と伊吹を見た。


今回浅葱と伊吹は分析役。


綴と雲雀は道案内を兼ねている。


これで情報が少しでも明確になればいいんだが。


わたしはそう思った。



「分かりました」


「承知」



わたしの言葉に浅葱と伊吹は返事をしてくれた。


綴と雲雀を見ると二人もはいと返事をする。


こうしてわたしたちの会議はとりあえず終わった。



「さて、じゃそろそろみんなご飯にしましょうか」



わたしが手を叩いてそう言うとみんなはざわざわと騒ぎ始めた。



「わーい、飯だー!今日は一段と走ったから、お腹ペコペコ…」


「今日は青葉頑張ったもんな」


「さすが弓絃さん!分かっていらっしゃる〜」



青葉と弓絃は笑いながらそんなたわいもない会話をする。


それを聞いた綴はすぐに立ち上がってこう言った。



「すぐご用意いたします」


「じゃ、拙者も…」



綴に続いて珍しく伊吹が後に続いた。


いつもは雲雀が付き添っているのに。


珍しいこともあるものだなとわたしは思った。



「おやおや〜。早速今日の親睦会の効果が出てきたようですね」



浅葱はそんな伊吹を見てにこにこと笑顔を向けながらそう言う。


そして浅葱も後に続いたのだ。


そんな中、雲雀は一人で少し複雑そうな顔をして綴を見ていた。


ただ心配そうに、綴を見つめて。


 

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