第二章 初めての任務



翌朝、古清水家。


わたしは清々しい気分で外を見ていた。


晴れ晴れする絶好の天気。


こんな日は外へ出掛けるのに限る!


さてと。


わたしは隣の部屋の弓弦の部屋の前に立っていた。


そしてその扉を勢いよくその襖を開けると大声で叫ぶ。



「さっさと起きろ、この寝坊助!何時だと思ってんだー!!」


「ごふっ!!!」



わたしは弓絃の布団を勢いよく持ち上げ、弓弦を転がせたのだった。


わたしは弓絃を無理やり起こした後、弓絃に身支度を済まさせ、二人で朝食を食べていた。


ここではパートナー同士交友を深めるために基本は食事は一緒にするように心がけている。


パートナーである以上、一緒に戦うことが多い。


なので相手を知るためにこうして会話する場も設けられるのだ。


そして改めてわたしは弓絃に最初任務を告げる。



「えー、今日は森の見回りをしようかと思います」


「見回り?」



弓絃はわたしの言葉を聞いてきょとんとしながら首を傾げる。


わたしと弓絃は向かい合わせで食事を取っている。



「あなたも両親から聞いてたでしょ?わたしたちはその力から一般の人を護る義務があるって」


「あー、確か闇の力って言ってたな…」


「そうそう」



不穏な力というのはまあ簡単に言えば闇の力の事。


その力は主に森の中に出てくるのが多い。


小さいものなら私の闇の力をぶつけることにより、闇の力がわたしの強力な闇の力を吸収することで容量に耐えきれなくなり、蒸発し、撃退できる。


けど、その力が具現化…つまり魔物になったらみんなが倒さなきゃいけない。


魔物退治みたいなものかな?


もちろん倒せばその魔物は消えるのでご心配なく。


そんなわけでわたしたちはその力が町に行かないよう、森に居座っている間に倒してしまう。


そのために古清水の屋敷が江戸の町から遠く離れているわけだしね。



「というか、あなた朝食それだけでいいの?」



わたしは弓絃の朝食を見て疑問を抱いた。


朝食は手のひらサイズのおにぎり三つと味噌汁だけというまさにシンプルな朝食だった。


食べ盛りの男子にしては少なすぎるような気もするけど…。



「うん。だって朝はいつもおにぎりとお味噌汁だけだったし」



弓絃はおにぎりを頬張りながらそう言った。



「よくそれで稽古とか出来たわね…」



わたしはむしろよくそれでその力がついたなと感心してしまう。


わたしたち力のある者は能力がある分、それなりに体力も使う。


だからきちんと体力をつけとかないといけない。



「だってお腹いっぱいだと動けないしさ。稽古終わった後ならいっぱい食べるけど」


「いや、稽古前もきちんと食べなさい」



弓絃がおにぎりと味噌汁だけでいいと言うから作ってきたけど…朝は少食なのね。


それでよく身体が持ったものだ。


味噌汁は綴が作っておいてあったからそれを入れてきたけど、おにぎりは一応…わたしが作ったんだよね。


美味しそうに食べてくれてるみたいだし。


なんだか嬉しく……なんてない!!



「…そういや質問いい?」



わたしがそんなことを考えていると、弓絃がふとそう言ってきた。



「何?」



わたしは慌てて弓絃の方を向いた。


すると弓絃は真剣な表情でこう言う。



「その魔物って、血とか出るの?」



わたしは一瞬その質問に固まってしまうが、すぐさま質問に回答する。


そういや魔物退治は初めてなんだっけか。



「魔物はただ闇の力が具現化したものなの。姿形は生き物のようだけど、あくまで力が集まって見えるようになってるだけ。だから斬っても消えるだけで血は出ないわ」



弓絃はわたしの説明になるほどと頷いた。


わたしたちの仕事はあくまで魔物が外に出ないように斬って数を減らすこと。


そして市民を守ること。


それが上から下された命なのだ。


弓絃は納得するとお味噌汁を飲み干して、お膳立ての上に置いた。



「ごちそうさまでした」



そして弓絃が朝食を済ませるとわたしたちは任務に行くために廊下を歩いていく。


向かっている最中に弓絃に改めて説明していく。



「不穏な力は週に一度。東西南北の四つの場所に現れるの。まずはわたしの闇の力で大抵の闇はやっつけるから、それでも退治しきれなかったのはあなたたちの役目だからね」



わたしたちは見晴らしのいい庭へと到着する。


そしてわたしは空に手をかざした。


わたしの瞳に光が宿ると目を閉じ、力を一点に集中させる。


その姿を弓絃は見ながらふと気になったことを聞いてきた。



「そういや他の奴らは?綴とか青葉とか」


「みんなあなたが寝てる間に配置についてる」


「え、マジで!?」


「マジで」



わたしの身体は少し黒く光り、そして一瞬だけキランと光り東西南北へと散らばっていった。


均等に散らばっていくとわたしの身体の黒い光りは消えた。



「はい、終了。後は実践専門の役目ね」



わたしが目を開けるといつの間にかわたしの瞳に宿った光も消えており、手をパンパンと叩きながらそう呟いた。



「闇の力と闇の力って、本来ならその闇の力って大きくなるんじゃないの?」



弓絃はふと疑問を抱いたことをわたしに問いた。


わたしは自分の手のひらを見ながら弓絃にこう返す。



「わたしの花姫の闇の力は特殊な闇の力なの。普通の闇の力じゃなくて、光に近い感じ。だから妖力にも負けないくらい強いのよ」


「へぇー」



たしかに本来なら闇の力を与えればそれが力となり膨れ上がる。


だが花姫の闇の力は特別らしい。


詳しくは知らないけれど、闇の力が大きくない限りどんな小さな闇の力にも対抗出来る。


そしてわたしたちはわたしの闇の力で退治しきれなかった妖力を退治しにいくべく、廊下を歩き出した。


そんな中わたしはふと思ったことを弓絃に聞いてみる。



「しっかしあなた、花姫に敬語使わないとか珍しいね。わたしより年上の雲雀や青葉や浅葱でさえ敬語なのに。…って、浅葱は元々敬語か」


「え?そんな決まりあるの?」



弓絃がわたしの顔を覗き込みながら物凄く真っ直ぐな瞳で聞いてきたので、わたしも口がごもってしまう。



「いやないけど…」


「じゃあいいじゃん。五十鈴って呼んでいい?」



わたしは小走りでわたしの目の前に走ってきた笑顔の弓絃に見とれてしまっていた。


思えば他の人にこんな真っ直ぐに誰かに笑顔を向けられたことはあまりなかった。


みんな優しいし、笑顔で接してくれ、家族のように思ってる。


だけどみんなやはりわたしが花姫だからと一線おいている気がした。


ましてやこんな気軽に相手が接してくれたことがあっただろうか。


そう思うとなんだか顔が熱くなるのが自分でもわかる。



「……勝手にしなさい」



弓絃の満面な笑みにわたしはフイッと目を逸らした。


多分わたしの顔は少し赤くなってたと思う。


あんな真っ直ぐな目でしかもあんな子供みたいな笑顔で、何か変な奴だわ。



「ところでさ、それで森に入るの?」



弓絃はふと立ち止まりそんなことをわたしに聞いた。


わたしも立ち止まって自分の格好を見る。


確かに私の格好は綺麗な袿姿の姫君らしい格好。


とても森に入る格好ではない。



「…甘い。甘いわ。こんな格好で入るわけないでしょ?見よ!この身軽な姿!!」



わたしは袿をバッと脱ぎ捨てた。


そして弓絃の目の前には朱莉や伊吹と同じスカートの白と黒の武装服姿のわたしが現れる。


背中には弓を背負っており準備もバッチリ。


これでも弓の腕は一人前。


わたしの相棒の水桜は凄く優秀なんだから!



「おー!……って、女の子なんだからそんな脱ぎ方しちゃダメだよ」



弓絃は一度拍手をしたが、そう言うと脱ぎ捨てた袿を拾い上げ五十鈴に着せた。



「…変態のあんたに言われちゃわたしもおしまいよね」



わたしはそんな弓絃を見てぽつりと呟くのだ。


 

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