夜出歩く際はご用心(弓弦語り)



宴会が終わった後、俺は浅葱さんに部屋を案内された。


その部屋で俺は寝ころびながら天井を見る。


俺の部屋は花姫の隣の部屋らしい。


浅葱さん曰わく、俺のパートナーは五十鈴というあのお姫様らしいのだ。


八華にはそれぞれ二組ずつパートナーになる必要が昔から決められていて、その人と部屋が隣になる仕組み。


俺と姫さんの部屋から少し右側に行ったところに青葉と朱莉の部屋がある。


左側の少し離れた建物の部屋に綴と雲雀、その少し隣が浅葱さんと伊吹の部屋らしいのだ。


しっかし広い屋敷だよなー。


風呂だって温泉かよってくらい広いし。


俺はそう思いながら起き上がった。


そういや、厠ってどこだっけ?


俺は探検もかねてとりあえず厠を探す事にした。


俺は厠を探して屋敷をうろちょろし、厠を見つけて用を済ませた。


そして厠から出て俺が思ったのは…。


つか、厠も広!


しかも綺麗!!


さらに男と女と分かれるし。


いや当たり前だけど確か温泉も男女分かれてたよな…。


こりゃ掃除も大変だろうなー。


というか誰がいつも掃除してるんだろ…?


俺はそんなことを思いながら廊下を歩いた。


ふと空を見上げた。


今夜は綺麗な満月だ。


俺はふと足を止めて満月を見る。


そして今日のことを思い出した。


この屋敷には俺の知らない強い奴が山ほどいるのだなと改めて確信する。


あの綴という女の子と戦って分かった。


多分ここにいる奴らはあの子と多分同じ強さだ。


そんな感じがする。


俺のまだ戦ったことのない奴ら……か。


九州にいた頃にはそんな奴らに出会わなかった。


でもここは各地から集められた選ばれた能力を持つ者ばかり。


俺はわくわくしてきた。


負けてられないな!


そんなことを思っていると何やら足音が聞こえてきた。



「あ、弓絃さん!」



見覚えのある奴が俺の方へ走ってきた。


えっと確かこいつは…。



「えっと…青葉だっけ?」


「そーそ!」



そう、青葉だ。


確か同じ右側の建物だったから、会うのは珍しくないだろう。



「こんなところでどうしたんすか?」


「いや、ちょっと探検に…」


「あー。ここ広いですもんね!オレも最初ここに来た時は迷いまくったな〜」



青葉はあははと笑いながらそう言った。


青葉は何か…優しそうだな。


宴会の時も気さくというか、明るい感じで。


ここに来て初めてこんな雰囲気の奴に会った気がする。


いや浅葱さんも優しかったけど、浅葱さんとは違う優しさというか。


何だろ…何か泣けてくる…。


俺がそんなことを考えていると今度は別の方角から足音が聞こえてきた。



「お、綴じゃん!」



青葉の声と同時に俺もそっちに向いた。


廊下の暗闇の中から綴が出てきた。



「青葉」



綴は少し驚いた表情で俺たちを見た。


すると一つに結んでいる綴の黒い髪の中から紛れてるキラリと光るものを見えた。


よく見ると綴の髪に結んでいる露草色の組紐から覗かせる結び目の両端に小さな鈴が二つついていた。


手合わせした時には気づかなかったけど、その鈴は綺麗な銀色の鈴だった。


だが何故かチリンと音が鳴らない鈴だった。



「どうしたの?こんな時間に」


「私は五十鈴様の様子を見に…。というか、お前らこそこんな時間に何しているのだ?」



綴はそう言った後、後で気づいたかのように俺らにも同じ質問で尋ねてくる。



「オレらはさっきたまたまここで会ったんだ。ね、弓弦さん?」


「あ、ああ」



綴にそう言った青葉は後から聞くように俺に尋ねてきた。


俺も呆然としながらも頷いた。



「…そう」



綴はそう言うと何やら俺をじっと見ていた。


いや多分、俺が綴を見ていたからだと思う。


俺はそんな綴の視線に妙な緊張感に襲われて動けなかった。


その瞳から目を離せずにいる。


綴は無心でまだこちらを見ている。


さすがに青葉も気になったのか、俺と綴を交互に見ていた。


この何考えているのか分からない目が一番怖いよー。


すると彼女はやっと諦めたのか、俺から視線を外した。



「じゃ私は寝るから。お休み」


「おー!お休み!」



青葉はそう言って綴を見送った。


そして綴は見えなくなるまで左側の離まで歩いて行った。


俺はしばらく綴が自分を見ていた時を思い出す。


彼女のあの目。


あの青みがかった藍色の冷たい氷のような瞳が綴の無表情さを際立たせ、余計に冷たさが漂わせる。


最初に見た時、その瞳に少し強ばった自分がいた。


だが今は何だか悲しい目だとも感じる。


何でだ…?



「弓絃さん…?」



黙って俯いて考えごとをしていた俺が気になったのか青葉が声をかけてきた。


俺は慌てて顔を上げる。



「…大丈夫。考えごとをしてただけ」



俺は心配かけまいと微笑みながら青葉にそう言った。


考えても仕方ないな。


気のせいかもしれないし。


そんな俺の表情を見て青葉がこう言う。



「弓絃さん!少なくともオレと朱莉は弓絃さんを歓迎してますから。あともちろん浅葱さんと多分伊吹も」


「青葉…」



青葉は俺を気遣ってか優しい言葉をかけてくれた。


真剣な表情で、真っ直ぐな瞳で。


俺はそんな青葉の真っ直ぐな瞳から目が離せなかった。


こいつは真っ直ぐな、正直な奴なんだなと。


青葉……本当いい奴だな。



「ただ…綴と雲雀は難しい性格っていうか…。本当は二人ともすげー優しいんすよ!オレも初めてここに来た時は弓絃さんと同じ感じで…。でもいざって時はすげー頼りになる奴らって分かって、だからオレも諦めなかったんです!だから弓絃さんも諦めないでぶつかればきっと二人も分かってくれますから!!」



なんだか青葉には俺の不安な気持ちを見透かされている気がする。


そんなに表情にでていたんだろうか…?



「……そう…だといいな…」



俺は青葉の言葉に背中を押された気がする。


そうだよな。


最初から全員に好かれることが間違いだったんだ。


少しずつでいい。


俺を少しずつでいいから、仲間と認めてもらえるようにがんばらないと。



「まああの二人より一番厄介なのは姫様ですけどね」


「あー、確かに」



俺は青葉と目が合うとお互い顔を見ながら苦笑いをしながら同意した。


確かに、あの姫さんは少し厄介だ。


何でいつもあんなに怒ってるんだか。



「あ、オレ厠行く途中だったんだ!じゃ弓絃さん。今日はもうこんな時間だし、明日の方がいいと思いますよー!では、お休みなさい!」


「ああ、お休み」


青葉はそう言って手を振りながら走って行った。


俺は青葉に手を振り返しながら見送った。


まあ確かにみんなの眠り邪魔すんのも悪いし、長旅だったからちょっと疲れたかも。


明日にするかな。


俺はそう思い、自分の部屋へ戻って行った。



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