試合で見極めろ
そして皆を集め、弓絃だけ庭の闘技場へ連れて行った。
「…あの…姫様??」
弓絃が何か言いかけたが、わたしはそれを遮ってみんなにこう告げる。
「これより、火神家が八華となる名に相応しいか見定めるための対戦を行います」
「って、無視!?」
弓絃の言葉も虚しく届かず、わたしは扇子を持ちながら対戦を進めた。
対戦相手は、もちろんわたしの護衛の…。
「綴」
「はい」
綴は二本の木刀を持って観客席から下に降り、弓絃の前に立つ。
「代々花姫様の護衛を仕えし者。雪之丞家の長女、雪之丞綴。以後お見知りおきを」
綴はお辞儀をしながら弓絃に自己紹介をした。
それに続いてわたしもこう告げる。
「綴はね、氷を司るけどその力は炎にも負けないほど。あなたの炎で綴の氷が溶かせるか…」
わたしは扇いでいた扇子を再び閉じた。
「とくと見させてもらうわよ!」
わたしは扇子をビシッと二人に突きつける。
そして鐘の音が鳴り、始まりの合図の始まりだ。
「使え」
綴は弓絃に持っていた木刀の一本を投げ渡した。
そして弓絃がそれを受け取ったのを確認すると、綴は木刀を構えた。
だが弓絃は木刀を構えない。
それどころか少々困った様子で木刀をジッと見ている。
そして弓絃は綴に向かって口を開く。
「あの……綴?だっけ?俺の炎、加減とかいまいちできないから止めた方がいいよ」
弓絃の動揺している言葉に対し、綴は木刀を構えながら問う。
「何をふざけた戯言を呟いているんだ?」
「いやいや!!ふざけた戯言じゃないし!マジなんだって!!」
弓絃はあわあわとしながら大声でそう言った。
何をあんなに慌てているんだろ…?
わたしには弓絃の行動がいまいち読めなかった。
「ご心配ご無用。私はこれでも幼い頃から五十鈴様の護衛を務めているため、積み重ねてきた鍛錬はそこらの武士より遙か上だ。炎の一つや二つで折れる柔じゃない」
「いやそうゆう問題じゃ…」
「ごちゃごちゃ言ってないで、とにかくとっととかかってこい」
綴と弓絃のこんな会話がずっと続いている。
不思議に思っているとわたしの隣にいた浅葱がわたしに話しかけてきた。
「あの…姫様。この試合、勝つのは目に見えているかと…」
勝つのは目に見えてる?
浅葱の言葉に笑いがこみ上げてくる。
そりゃまあ、当然!
「当然綴の…」
「いえ弓絃の勝ちでしょう」
「な!!何で!?」
浅葱の突然の言葉にわたしも大声を上げた。
あの綴が負ける…?
確かに浅葱の言ってることはいつも正しい。
それが全てその通りになった。
だけど、そんなことって…。
「言ったでしょ?火神家の噂は私の耳に届いていると。あの男、刀の腕だけはただ者ではありませんよ」
わたしは浅葱の言葉に綴に視線を向けた。
わたしは心配になりながら綴を見守った。
「はぁー…仕方ないなぁー。刀で語れってか?女を傷つけるのは趣味じゃないが、仕方ない。花姫様の命令らしいし」
弓絃はため息をつきながら折れたのかようやく木刀を構えた。
「ようやく分かったようだな」
二人の前に緊張感が漂う。
その空気にわたしたちも息をのんだ。
「で、ルールは何?説明されてなかったけど、俺の場合は炎の力を使って相手から一本取りゃいいの?」
「ああ」
「わかった」
しばらく二人の間に緊張感が走った。
そしてそれを遮るかのようにまずは綴から地面を蹴って、弓絃に斬りかかる。
それを弓絃はひょいっと木刀で受け止める。
綴は木刀で弾いて距離を取り、木刀を構え直すと気を集中させた。
綴の瞳に一瞬光が宿る。
それに共鳴するかのように綴の周りには冷気が集まる。
すると会場には雪の吹雪が吹き荒れていく。
「わお。寒!!」
「ひやー!綴の雪は冷える冷える」
綴の雪の冷気は周りの者も凍らせる。
おかげで遠くで見ているわたしたちでも肌寒さを感じる。
「はあっ!」
そして綴は地面を蹴り弓絃に再び斬りかかる。
弓絃はそれを受け止める。
そんな激しい戦闘が何度も繰り広げられている。
「…なぁんだ。綴の方が押してるじゃない。浅葱、考え過ぎだよ」
わたしは綴の戦いっぷりを見てほっとした。
見てる限り、綴の方が押している。
私は心配して損したなとのんびり椅子に座ると浅葱から言葉が返ってくる。
「そうでしょうか?」
「え?」
わたしは浅葱の言葉に固まった。
「妙ですよね。綴はあーやって戦っているのに、弓絃は綴の刀を受け止めて流しているだけ。綴に一度も力で攻撃していませんよ?」
わたしは浅葱の言葉にもう一度戦いを見る。
確かに綴は攻撃をしているが弓絃は受け流しているだけ。
まるで…綴の稽古をつけているかのよう。
「彼は多分、本気ではありませんね」
本気じゃ…ない?
確かに今の綴も本気じゃないけど、でも綴は弓絃を試しているだけ。
ここであなたの力を出させるために戦っているのに…。
わたしはちらりと雲雀を見た。
雲雀は柱にもたれ掛かりながら、弓絃と綴の対戦を見ている。
わたしは雲雀と交代した方がいいのか悩んだ。
もちろん綴も強い。
そこらの剣術に優れた武士にすら綴は負けたことすらない。
だが浅葱がこれほど言うことも滅多にない。
それに体格差で言えば綴の方が正直不利になる。
どうしよう…。
そうして考えていると、綴は距離を取って立ち止まった。
「どうした?お前…本気を出していないだろ?」
綴は弓絃にそう言葉を投げかけた。
どうやら綴は気づいていたようだ。
弓絃が本気で戦っていないことを。
「さっきから私の攻撃を受け流してばかり。そんなんじゃ、八華とは認めてもらえないぞ?」
綴はそう弓絃に告げる。
そう。
これは弓絃の力を試す戦い。
弓絃の力を示す場でもあるのだ。
「でも…」
「いいからお前の力を見せてみろ。五十鈴様が見ているんだ。お遊びは、これくらいで充分だろ」
弓絃は綴の言葉に黙り込み、考えた。
迷っているようだった。
この力を出していいのか、と。
そして少し考え、顔を上げて真剣な表情になる。
「…分かった。けど…お願いだから、危なくなったら逃げてね。俺の炎はちょっと特殊らしいから」
弓絃は木刀を構えて深呼吸をすると、気を集中させた。
弓弦の瞳に力を発動するために一瞬光が宿る。
その時だった。
弓弦の周りに炎の渦が現れた。
それだけならまだ良かった。
そこからメラメラと燃えだすとこちらにも熱気が伝わるほどで、そこから伝わる凄まじい力をわたしたちは感じた。
「!!」
わたしは感じた力に驚いた。
まさかこれほどの炎の力があるなんて。
「熱っ!!何これ?さっきの綴の力とは比べものにならないじゃない!」
「寒かったり熱かったり、いっそがし~」
朱莉と青葉は相変わらず騒がしくそう言った。
これにはわたしも、そして見守っていた雲雀も驚いた。
「……っ…」
伊吹は熱風を浴びて少々熱そうにした。
顔をマフラーで不意に隠す。
「伊吹。こちらへ寄りなさい」
「…はい」
浅葱は伊吹を気遣い、熱風が来ない場所の浅葱の羽織の中へ入れてあげた。
弓弦の力の差に浅葱も言葉を漏らす。
「しかしこれほどの力とは…」
「これは…少々マズいかも…」
わたしがそう呟き綴に目を向けると、綴は無言で弓絃の炎の前に立ち尽くしていた。
綴の方がわたしたちよりも近くに弓絃の熱風を浴びているはず。
綴もさすがに汗がぽたりと流れ落ちた。
「なるほど…。これは強い力だな」
これには綴も苦笑いをした。
わたしも今までにこんな強い炎は見たことない。
でも……何だろ…?
わたしの中で何か暖かいものが通り過ぎた感覚があった気がした。
なんだかわたしの中の闇の力が、強い何かが反応しているかのような。
そんな感じがした。
「本当に…いいんだな?」
「ああ。来い!」
綴は木刀を構えてそう言った。
そして弓絃は地面を蹴って綴に斬りかかった。
綴はそれを受け止めて、弾き返す。
二人はバシバシと音を叩きながら炎と氷の激しい戦闘が繰り広げている。
そして綴は回り込んで弓絃に突きを入れる。
だが弓絃はそれを見切って素早く避ける。
綴は体制を崩したが、すぐ切り替え構え直す。
「女の子なのに強いなぁ。軽く楽勝で一本取ってやろうと思ってたのに。こりゃ簡単には行かないか。久々に燃えてきたー!」
すると弓絃から何やら眩い光のようなものが身体から光っていた。
この輝きは…!!!
「!?」
綴は驚いた表情で光の力を放つ弓絃を見る。
「この眩い輝きの力は…」
「光…まさかあの者が光の力を…?」
浅葱がそう言った後にわたしも続いてそう言う。
みんな眩い光に腕で少し隠しながら目を細めて見た。
この光、間違いない。
これはわたしが探し続けていた光の力の持ち主…!
「くっ!光で前が………わっ!!」
綴が手で光を遮っていると、誰かがひょいっと綴を抱えて上へ登った。
そして光はおさまった。
気づけば弓絃の炎もおさまっていた。
「何だ…?今の光は…?」
弓絃は自分の身体を見渡しながら首を傾げた。
弓弦は初めての出来事に混乱しているようだった。
「姫様。これは…」
「間違いない。光の力!!」
わたしがそう確信の声をあげると、綴と誰かがわたしたちのところへ着地した。
そして綴をそっと下ろしてやる。
わたしが振り返り見るとその人物は雲雀だった。
「雲雀?いつの間に…」
わたしがそう言いかけると雲雀は綴からわたしに視線を向けた。
そしてわたしの前に跪きながらこう告げるのだ。
「姫様。もう彼の実力は分かったはずです。これ以上、彼女が戦う理由もない。ここらでこの者の判断をされてはいかがですか?」
雲雀の言葉にわたしは少し考えた。
確かにわたしは弓絃の力を見定めるためにこの試合を執り行った。
まあ、半分はあいつを懲らしめるためだけど。
でもここらで収穫は充分なほどあった。
彼が光の力の持ち主だと。
それだけでも充分じゃないのだろうか。
「…分かったわ。ここらで終わりにしよう。元々、弓絃の力を見たかっただけだし」
わたしは顔を上げてみんなにそう言った。
そしてわたしは弓絃に向かってこう言った。
「弓絃。あなたを八華の一人として認めます」
すると弓絃はその言葉に対してわたしに疑問を返してくる。
「ほ、本当に??」
「本当に、だよ。それと光の力があるなら何で最初に言わないの?」
五十鈴がそう弓絃に問うと、弓絃は少々騙されたのか困惑しているかの二つが混ざったような表情をしながらこう言った。
「…それは…みんながあれは特殊な炎だろうって言ってたから、てっきりそうだと…。でもあんなに光ったのは初めてだ」
どうやら弓絃も初めて知ったような表情だ。
何でだろ?
火神家が光の力の姿を知らないわけじゃないのに。
前の火神家の跡継ぎは確か…この人のお父様のはず。
「あなたの一族が秘密にしていたのか、それとも…あなたのお父様があえて言わなかったか、かしらね」
弓絃はわたしの何かを聞いて一瞬だけ曇った表情を見せた。
わたしはそんな弓絃の様子が目に入っていなかったのか気にせず話していると、弓絃は再び明るい表情になり顔を上げてわたしを見た。
「とりあえずおめでとう、弓絃。ようこそ八華へ。花姫の名により、あなたを歓迎します。」
「はい」
弓弦はわたしの言葉に勢いよく返事を返す。
そしてその言葉を聞いた後、わたしは綴にも目を向ける。
「綴もお疲れ様」
「……はい。ありがとうございます」
綴はわたしの言葉にペコッと頭を下げる。
そしてわたしは笑顔でみんなにこう言った。
「さて、宴会の続きでもしましょうか」
わたしがそう言うとみんなは宴会は歓声の声を上げた。
「よっしゃー!また酒呑みなおそ」
「え?まだ呑むの!?」
「おやおや。若いものは元気ですねー」
「浅葱も充分若いと思います」
「それはありがとうございます。伊吹」
みんなはぞろぞろと騒ぎながら宴会場へ向かった。
わたしもみんなの後を追うべく歩き出すが、振り返って綴に声をかける。
「綴。わたしたちも行くよ?」
「…はい!今参ります」
綴はわたしの元へ駆け寄ろうとするが、先に隣にいた雲雀に目を向けた。
雲雀は何か考えているようだったが、綴は雲雀に向かってこう言う。
「雲雀くんも、行こ?」
「…うん」
綴の言葉に先程まで考えていた雲雀もすんなり頷く。
そして綴はわたしの元へ歩み寄った。
「弓絃も早く上がって来てよー?主役のあなたがいないんじゃ、宴会の意味がないからねー!」
わたしはまだ下にいる弓絃にそう言って綴と雲雀を連れて歩き出した。
「あ、ああ」
弓絃はそう頷いて上へ飛び上がろうとした。
その時に歩いている雲雀が目に入った。
弓絃は雲雀を見た後、何かを思い出して急いで上へ飛び上がり、雲雀に声をかける。
「なぁ。えっと…俺を迎えに来てくれた前髪で片方の目が隠れてる青年くん」
すると雲雀は立ち止まり、振り返った。
「…僕?」
「そうそう!君だよ、君」
弓絃は慌てて雲雀に駆け寄った。
雲雀はそんな弓絃を無表情で見ながら弓弦に問いた。
「何か用?」
「えっと…君の名前、聞いてなかったからさ。俺は火神弓絃。君は?」
弓絃がそう聞くと雲雀はこう返した。
「風間雲雀」
名前を、淡々と、それだけを呟いた。
弓絃はその名前を聞くと少し考えながらこう問う。
「風間……すると風使い?」
「そうなるね」
雲雀は何だか素っ気ない感じで弓絃の質問に答えた。
そしてそっぽむいてしまう。
だがそんなことも気にしないかのように弓絃はこう続ける。
「風かー。そういや君の刀、あの綴って子と似たような雰囲気してるよね」
弓絃は雲雀の刀を見ながら問いた。
雲雀の刀は他の刀と違い、身長に近い長さなので肩にかけている。
「彼女が持っているのは小太刀。僕のは大太刀。長さ的にどう見たって全然違うとは思うけど」
「小太刀と大太刀…」
その名前を聞いて弓絃は真剣な表情をした。
何か思い当たる節があるのか考えた。
「何か名前似てんな~、あはは」
だが弓絃は刀の種類による知識はなかったようだ。
弓絃はあははと満面な微笑みを見せる。
それを見た雲雀は表情を一瞬変えた。
「俺の刀も太刀って言うんだ。凄いな、似てるよな。何か関係とか…」
弓絃がそう言いかけると雲雀は弓絃に顔を近づけた。
弓絃はそれに驚き雲雀を見下ろす。
「な…何…?」
弓絃は雲雀を見ながらそう言った。
透き通るような、何もかもすり抜けてしまいそうな霞色の瞳。
すごく綺麗だと思った。
だが弓絃はそんな雲雀の瞳に何かを感じた。
まるで何も興味がないような…いや違う。
何かにしか興味がないような、何もない無心のような瞳だと。
そんなことを考えているとさっきまで見つめてきた雲雀がようやく口を開く。
「と言うか君。あんまつーちゃんに近づかないでよね」
「つーちゃん?」
弓絃は聞き慣れない名前に首を傾げた。
それに対し雲雀は少し離れた後、腕を組みこう答える。
「雪之丞綴のこと。彼女と僕は小さい頃からの付き合いだ。実家が近所ということもあるけど、彼女のことはそれ以上に大切に思ってる。だから僕は彼女に害をなす者も許さない。それが例え今日初めて会った相手でもね」
雲雀は鋭い目つきを弓絃に向けながらそう言い放った。
弓絃はそんな雲雀を見て何かを察したのか、ふと思いついたことを言ってみた。
「…君ってさ、もしかして過剰なほど過保護なの?」
「は?」
雲雀は弓絃の突然の言葉に固まる。
そんなことを気にも止めていない弓弦はこう続ける。
「よくわからないけどさ、あんまり過剰に過保護すぎると女の子に嫌われちゃうよ?」
その言葉に雲雀はしばらく沈黙する。
するとしばらく沈黙していた雲雀は、弓絃を睨みつけながら口を開く。
「……バカにしてるの?」
その目はまさに冷ややかな目そのものだった。
それを見た弓絃は慌ててこう言う。
「いやそうゆう意味じゃ…」
「とにかく。他の奴らが認めても僕は認めないから。じゃ」
そう言い残すと雲雀はその場から去って行った。
弓絃は何か言いかけたがそう言う前に雲雀はその場から消え去り去って行ってしまった。
風の力を使ったのかもうそこにいたはずの雲雀がいない。
その場には弓絃だけがぽつんと残されたのだった。
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