第一章 試合で見極めろ



夜、古清水屋敷。


宴会場にて。


古清水家は火神家の賢者を歓迎するため、宴会を開いていた。


わたしはいつも普段から着ている桜の花があしらわれた薄い桜色の袿に、このふわふわの髪が生かされた腰まで長いストレートロングを桃色の細いリボンでハーフアップにして着替えて座っている。


やはり何よりも普段着に勝るものはない。


この格好が一番落ち着く。


奥の方にはわたしが座っている。


そして右側には順に弓絃、綴、雲雀。


左は青葉、朱莉、そして空席が二つ。


まだあの二人が顔を出していないのだ。


連絡してあるはずだからすぐ来るはずなんだけど…。


そんな中、左に座っている青葉と朱莉の方から声が聞こえた。



「いやー!まさか八華が全員揃う日が来るなんてなー」



酒を呑みながら酔っている彼の名前は雷鋒青葉。


八華の一人で雷の力を司る現在自分の側に置いている刀二本、二刀流の使い手。


雷鋒家の長男、歳は十九。


風を切ったような少しうねりがある黒くて短い髪。


矢吹色の瞳に幼さがある少年らしい顔立ち。


そしてみんなと同じ武装服を身にまとっている。



「それにしても…あの人ってどれくらい強いの?」


「さあ?あたしその力見てないし…」



青葉は弓絃を見ながらそんなことを呟いている。


その隣にいる朱莉も首を傾げながら弓絃を見た。


そういえばわたしもその力は知らないんだよね…。


どのくらい強いんだろ?



「いやいや。俺なんてそんな対した奴じゃ…」



弓絃がそう言いかけた瞬間襖が開き、聞き慣れた声が聞こえた。



「当代の火神家の長男、火神弓弦。火を司る太刀、烈火の使い手。その力は城土家にも届いています。あなたの強さは火神家でも歴代を誇る強さでしょう」



そこには先程出かけていた浅葱がすらすらと情報を連ねながら入ってきた。


伊吹も浅葱の後ろをついてきながら一緒に入ってくる。



「浅葱!伊吹!」



わたしは二人の姿を見てぱあっと明るくなった。



「遅くなって申し訳ありません」



伊吹はぺこりと頭を下げながらわたしにそう言ってきた。


それにわたしは首を振り、二人を迎え入れた。



「お帰りなさい。遅かったわね」


「すみません。いいお茶の葉が売っていたもので」



浅葱はそう言ってにこやかにわたしにお茶っ葉の入った袋を見せてきた。


そして二人は先程まで空席だった席へと座る。


それを見た青葉が浅葱に向かってこう言う。



「相変わらずお茶が好きですね…。あと饅頭も」


「いいじゃん!あたし浅葱さんのお茶好きだし」



朱莉は青葉の言葉に対しキラキラと目を輝かせながらそう言った。


それに浅葱は反応する。



「おやおや。それは嬉しいです。朱莉さんには後でお茶をご馳走しますね」


「本当ですか!?わーい!!やったー!!」



浅葱の言葉で朱莉はピョンピョンと跳ねながら喜んだ。


浅葱のお茶と饅頭好きは八華一だ。


選んでくるものは全部美味しい。


間違いない。


わたしも心の中で共感する。



「ところで、随分弓絃に詳しいのね。浅葱」



わたしはふと浅葱の言葉を思い出し、浅葱に問いた。


すると浅葱はわたしの質問にこう返す。



「それは今後とも八華として一緒に過ごす身。今後のためにも味方の情報収集も必要ですからね」


「相変わらず恐ろしいほどの情報力…」



浅葱が満面爽やかな笑顔でそう言うと青葉がボソッと呟く。


浅葱の情報力にはわたしも同感。


正確なデータで欠点なんて見当たらないほど。


本当に凄い。



「あ、自己紹介がまだでしたね。初めまして。私、土を司る城土家の長男、城土浅葱と申します。年齢はあなたの一つ上になります。武器は今はしまっているのですが槍を嗜んでおります。以後お見知りおきを」



浅葱は丁寧な説明をしながら弓絃にお辞儀をする。


それに続いて浅葱の隣にいる伊吹も自己紹介をした。



「……名草伊吹。十六。草を司る者」



伊吹は一つ一つの言葉をぽつりぽつりと呟く。


弓絃はそんな伊吹を首を傾げて見た。


伊吹は弓絃の視線に慌てて首元に巻いているマフラーと忍者帽で顔を隠し、浅葱の後ろに隠れてしまう。


声は聞こえているんだけど、どうやら伊吹の行動や言葉が弓絃には珍しく感じたようだ。


そんな伊吹を弓弦が見ていると、浅葱が代わりに伊吹の説明をする。



「すみません。伊吹は初対面の相手になると言葉が単語になってしまい、こうなってしまうんです。ここからは私がご説明いたします。伊吹は名草家の長女で歳は十六歳。八華の中では最年少になります。名草家は忍者の家系で忍術はもちろんなのですが、中でも忍刀が得意なんですよ」



浅葱は丁寧に説明をする。


こう見えて伊吹の面倒見もいいから、伊吹のことは何でも知ってるのよね…。


まるで兄妹みたい。



「なるほど…。ありがとうございます」


「いえいえ」



弓絃はそんな浅葱の説明にお礼を言う。


浅葱もそんな弓絃に笑顔で答えた。



「あれ?もしかして紹介してないの、オレらだけ?やべ!出遅れた!!えっと…オレは雷鋒家の長男の雷鋒青葉!雷を司る二刀流使いです。よろしくお願いします!弓絃さん!」


「あー!青葉だけ抜け駆けズルい!!あたしは霧ヶ峰家の長女の霧ヶ峰朱莉。霧を司る短刀使いです!よろしくお願いします!」


「あ、ああ。よろしく」



弓弦は青葉と朱莉の勢いのある自己紹介に呆気に取られるも、すぐに挨拶を交わした。


この二人のいいところは人見知りをしないのと、ムードメーカーであるところかな。


わたしは何気にふと綴と雲雀を見た。


二人は周りに気にせず黙々と食べている。


わたしはなんとなくこの二人が距離を置いている雰囲気を感じ取ったので気にしないことにした。



「そういえば八華って男女半々なんですね」



弓絃はふと気になったことを浅葱に問いてみる。


その質問に浅葱は口を開いた。



「ええ。まあ…八華というのは元々花姫様以外、他の跡継ぎたちは男性だったようです。訳あって女性も跡継ぎにできるようになったみたいですが…」



八華は元々女性が花姫だけだった。


だけど跡継ぎは昔から一番最初に産まれた者と古くから決まっており、いくらなんでも他の家が必ず最初に男産まれてくるとは限らない。


それで先代の花姫様が女も家の跡継ぎにと、女でも八華になることができた。



「なるほど…。しっかし八華のお姫様って随分な子どもなんですねー。歳はいくつくらいですか?」



弓絃の突然の発言にその場にいた浅葱、いや皆が止まった。


その言葉にわたしはわたしの中で何かがフツフツと煮えたぎる音がした。


綴に対してはお茶を飲もうとしたが、今の言葉で少し吹き出した。


そしてそんな沈黙の中、一番に浅葱が恐る恐るこう告げる。



「…い…一応、そちらの女子お二方と同じ十八

ですが…」



浅葱は遠慮がちにそう言うと、弓絃はまたまたデリカシーがないことを言った。



「え、十八!?てっきり十四〜五かと思った。十八かぁ…。そこの女子二人は美人さんだから分からなかったわー」



その言葉にまたわたしはフツフツと煮えたぎる。


さっき浅葱から伊吹が最年少だって言ってたじゃない。


八華ってわたしも含まれてるのよ…?


それなのにこの男は…!!



「え、ホントに!?うそ…褒められたの初めて…!いつも町歩いても綴ばっかだったのに」


「お、おい。朱莉まで何言って…」



弓絃のその言葉に朱莉は嬉しそうにした。


だがそんな朱莉を止めようと青葉がわたしを見ながら焦った表情をする。


わたしの心は既に限界寸前だ。


わたしは弓絃にこう問いた。



「ねえ?何でこの人はこんなにデリカシーがないことばかり言ってくるのかなー?もしかして喧嘩売ってんの!?」



わたしは怒りが爆発しそうだった。


そんなわたしを宥めるように浅葱がこう告げる。



「火神家は九州の随分田舎なところにありますからね。仕方ないですよ」



浅葱は少々焦り気味なようにそう言った。


何かマズいことを言ったかという弓絃の首を傾げる姿も目に入るが、今はそんなことはどうでもいい。


どうやらこのド田舎者に世間様の礼儀と言うものを叩き込む必要があるわね。


そしてわたしはふとこんなことを思いついた。



「そういえば…まだあなたの力、どれほどのものか見ていなかったわよね」


「え?」



わたしの言葉に弓絃は驚いた表情をする。


この礼儀知らずの若者を懲らしめるには、これしかない!



「いいわ。あなたが八華と名乗るべき人間に相応しいか、見定めてあげる」


「え?いや、あの…」



弓絃が何か言おうとしたがわたしはそんなの気にしなかった。


 

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