第一章 新しい賢者


古清水屋敷。


火神家の跡継ぎを見つけた二人がたった今帰ってきた。


わたしは小走りをして二人の元へ駆け寄った。



「お帰り!!綴!雲雀!」



二人の元へ駆け寄ると二人とも笑顔でわたしに返してくれた。



「ただいま」


「五十鈴様。ただいま帰りました。帰りが遅くなってしまい申し訳ありません」



雲雀は一言、そうわたしに返してくれる。


綴はわたしに跪きながらわたしに詫びを入れた。



「そんなの構わないわよ。二人が無事で帰ってきたなら…。それで、火神家の方は?」


「はい。あの者です」



わたしが問うと綴は後ろを見ながらその方向を指した。


わたしも後ろに目をやると、その青年はキョロキョロと屋敷を見渡していた。



「へぇー、これが古清水の屋敷かー。デカいな!」



見たところ普通の男性だ。


短髪で少し癖毛がある焦げ茶色の髪。


赤みがかった真紅色の瞳。


みんな着ている武装服も少々着崩してはいるが、ちゃんと着て来ている。


何より火神家の跡継ぎである証の太刀を腰に身につけていた。


それが火神家である証拠となる。



「へぇー。あの人が当代の火神家の長男、火神弓絃。見た感じ普通みたいね」



わたしは弓絃をチラッと見ながらそう言った。


なんだ。


火神家から随分厄介とは聞いてたけど、案外普通の男性のようね。


結構安心したかも。


わたしは心の中でそう思うと、弓絃の前まで歩いた。



「えーっと。火神弓絃さん…でしたね?」


「あ、はい」



わたしの声に弓弦は振り返って背筋を伸ばす。


そしてわたしは袿を少し託しあげてお辞儀をし、自己紹介をした。



「初めまして。古清水五十鈴です。当代の花姫を務めております。今回は江戸遥々までようこそおいでくださいました」



わたしは花姫らしく、弓弦に敬意を払いながらそう言って挨拶をした。


我ながら完璧な挨拶である。


そう思っていた。


だが弓絃からの返しが一向になく、それどころか無言でわたしをジッと見ていた。


わたしはその視線に気づき、顔を上げる。



「あの…何か…?」



わたしは首を傾げながら弓絃に問う。


何かおかしなところがあっただろうか?


そう思っていた。


すると弓絃から思わぬ一言が返ってくる。



「いやー、花姫様って美人かなと思ったんですけど…意外と小さいというか…子どもだったんですね!」



弓絃はあははと言いながらそう言った。


それには綴も雲雀もさっき以上に沈黙としてしまう。


わたしはしばらく沈黙する。


今、この者はなんと言ったんだろうか…?


わたしが子ども…?


このわたしが、今、初対面の相手から子どもと言われた?


わたしは心の奥深くからマグマのような怒りが込み上げてくるのが分かった。


そして今まで平然と保っていたわたしは、弓弦に対し思いっきり大声で発言する。



「悪かったわね!!小さくて!!!」



わたしは大声で弓絃に怒鳴る。


屋敷中に聞こえるような大きな声で。


信じらんない!!


初対面なのに、あんな…あーもう!!


ムカつく!!!


こうして火神弓弦という男との最悪な出会いを果たしたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る