暗闇に光を

第60話

「なんでまた僕の邪魔するのかなぁ」



柊はイライラしたように、足を揺らす。



「煌には手を出すな」



「あはっ、もう遅いよ。あと15分もすれば、彼女の記憶はなくなる。怜央のことなんて忘れるさ」



「っ…!」



怜央は目を見開いて固まった。


……伝えないでほしかった。怜央を余計に心配させてしまう。



「だからそれまで眠ってもらうんだ」



首筋に冷たい針先があたる。

……あぁ、もう無理なんだ。



「かはっ…」



諦めて目を閉じた瞬間、柊の体が部屋の端まで吹っ飛んだ。

怜央が零斗に足蹴りを入れたようだった。



「手を出すなと言ったろ、零斗」



「僕に攻撃したって意味ないよ。もう、薬は飲みこませてあるんだから。無駄な抵抗はやめな」



柊は手の甲で血をぬぐいながらゆっくりと立ち上がる。

その間に怜央が私のほうに走ってくる。怜央のこめかみには汗が伝っていた。



「煌、久しぶり。助けに来たぞ」



こんな時でも笑顔で私に話しかけてくれる。きっと安心させようとしてくれてるんだろう。どんだけ優しいの…。

でも…でも、その優しさにはすがれない。



「久しぶり、怜央。助けに来てくれてありがとう。でも、もういいよ」



私は怜央の私を支える手をほどいて、立ち上がる。

私がどうにかしないと。記憶が無くなるのが防げないのなら。



「何するつもりだ?煌」



この状況が変わらなくても、この先のことを考えるなら。私が動かないと…。



「私の記憶が無くなる前に、柊零斗をこの手で殺す」



記憶が無くなって、あいつの良いようにされるのは嫌。だから、今ここで私が殺す。

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