第52酒:竜討祭2・過激竜保護団体を脅迫するオッサン。


何が起きたか分からない。

そう全員が驚いて何も言えない中でヘンリーは酒飲んで言った。


「やめろ。トカゲ。酒がまずくなる」

「っ―――!?」


ドラコラスは驚愕で目を見開く。

その瞬間、空気が変わった。ヘンリーに対して何人かが殺気を放つ。

ヘンリーはなんとも思わず、また酒を飲んだ。


「貴様あぁぁぁっっっ!」

「ドラコラス様になんと無礼なぁぁぁっっ!」

「許さんぞぉぉぉぉぉっっ!」

「生きてここから帰れると思うなああぁぁぁっっ!」


そう激怒して現れたのは四人の男女だ。

全員が白装束でフードを被っていたが背丈は様々だ。

一番小さいのは女の子。

細長かったり、普通だったり、太っていたりしていた。


「ひいいいぃぃぃっっっ」


テリは恐怖する。当然だ。彼等が放つ殺気は強烈だ。

泡を噴いて倒れないだけマシだった。


「あ? なんだおまえら」

「我等は」

「いや、いいや。さて、おい。白トカゲ」

「ドラコラスだ! ぐっ、何故だ。なんでこの足を退かすことが出来ない」

「そりゃあ踏みつけているからな」

「馬鹿な、貴様ただの人間ではないな」

「ただの人間だ」

「いやもう説得力ないんだよオッサン」

「貴様ああああああぁぁっっっっ」


四人のひとりが怒号をあげた。

一番背が高くて大きな男だ。大剣を振りかぶってヘンリーに襲い掛かってきた。

ヘンリーは素早く剣を抜き、ドラコラスの顔横に突き刺した。

易々と地面に刺さり、男が止まった。


「動くなよ。この白トカゲの首が飛ぶぞ」

「オッサン!?」

「……なっ……この剣は……馬鹿な……こんな剣で……でドラゴンを殺せると思っているのか!?」


ドラコラスはヘンリーの剣を見て本気で驚いていた。


「オッサンの剣がなにか」

「あ? はぁー、しゃあねえな。おい。そこのデカイの。その剣は頑丈か?」

「当たり前だ。この大剣は魔剣であの爆火竜の」


ヘンリーは素早く剣を振った。それだけで男の大剣は綺麗に切断される。


「っ!?」

「!?」

「!?」

「!?」

「ば、馬鹿な……この大剣は魔剣であの爆火竜の」

「というわけで動くな。白トカゲの首を刎ねるぞ。まあ首を切っても命がひとつ減るぐらいで死なねえけどな」

「おまえ。なんでドラゴン最大の秘密を!?」

「マジでドラゴンなんだ。ということはドラゴンがドラゴン保護団体の代表やっていたってコト……? というかオッサン。なにをしているんですか」


テリはこの状況とヘンリーの行動に疑問符を浮かべる。

いつものヘンリーと違う。


「あ? ああ、そうだな。白トカゲ。俺の目的はひとつ。ドラゴンの酒だ」

「なんだ。いつものオッサンだ」

「……ドラゴンの酒……?」


ドラコラスはきょとんとする。


「ドラゴンの里にあるという伝説の酒だ」

「今、あんたが飲んでいる酒がそうだが?」

「……」

「……」

「……」

「……」


ヘンリーはドラゴンの酒を飲む。そして呟く。


「……そうか」


ヘンリーはドラコラスの腹から足を退けた。

ドラコラスは立ち上がり、白装束の埃を払って、ヘンリーに言った。


「あのぉ、もう帰ってくれませんか」

「ああ、悪かったな。ところでおまえらこんなところでなにしているんだ?」

「それはその」

「すげえ。オッサン。今までなんも聞いてなかったんだ」

「あ? ちっこいの。ちゃんと聞いていたぞ。面白ぇ女と戦うんだろう。気の毒に」

「いやまあ、確かにそうですけど」

「面白ぇ女?」

「ディンダさんのことです。ちなそこのオッサン。全勝してます」

「……あんたいったいなんなんだ」

「ヘンリー。単なる酔っ払いだ。ちなみに趣味は冒険者ギルドの酒場に冒険者じゃないのに入り浸って、新人冒険者にウザい絡みをすることだ」

「な、なんて迷惑過ぎる……」


ザワザワする。

幹部四人も元冒険者なのでその迷惑な気持ちは痛いほど伝わっている。


「私。これでもギルド職員なんですけど……」

「あ? だからなんだ」

「そんな迷惑行為を職員の前で堂々よく言えるな!」

「怒るなよ。ちっこいの。ほら飴やるぞ」

「わーいって、そんなんで喜ぶわけない! でもありがたく貰っておきます」


飴玉を仕舞うテリ。ちゃっかりしている。


「それでこいつらなにしようとしていたんだ?」

「ドラゴンフレンドは竜討祭を邪魔しようとしたんですよ」

「あっコラ」

「ふーん。竜討祭を……か。なあ、おまえら。ヨウカンって知っているか」

「それはもちろん」

「美味しいですよね」

「アチ好きです!」

「オラも好きだ」

「あーいや、えーとなんかヨウカンみたいな名前の教会の司祭だ」

「ひょっとしてアサカン様?」

「そう、そいつだ。俺な。そいつにちょっと借りがあってよ。まぁ早い話がナシつけようと思ってんだ」

「教会の辺境で一番偉いひとですよ!?」

「偉かろうがなんだろうが、殺しに来たんだ。殺されても仕方ねえよな」

「えぇぇ……なにそのリナート精神……」

「教会と全面戦争するつもりか」


さすがのドラコラスも戦慄する。

他の白装束たちもざわざわしていた。


「んなわけねえ。そのつもりなら10年以上前にとっくにやってる。まあもっとも何十人かはナシつけたけどなぁ。なぁーに今回はたったひとりで手打ちにしてやろうって言ってんだから優しいもんだろ」

「……10年以上前……あんたまさかあの事件の関係者か!?」

「えっなに?」


ドラコラスは何か知っているみたいだ。

ヘンリーはドラコン酒をあおった。


「さあな。俺はもう酒浸りのヘンリーだ」

「……それで俺達に何をさせるつもりだ……?」


ヘンリーはニヤリと笑った。












豪奢な馬車の一団がジークフォレストへ近付いて来る。

真ん中には一番派手でやたらキンキラピカピカしている馬車がある。

悪趣味の極みといえばそれだけで済む、そんな馬車だ。


「ヨッホホホホカン」

「アサカン教区司教様。もう間もなく着きます」

「ヨッホホホホホカン。楽しみですなあ。ヨッホホホカン」


膨らんだ風船に豚の頭が付いたキンキラ聖衣の男・アサカン教区司教が笑う。

対面の聖女も微笑んだ。その隣の金ぴか鎧の騎士・十二使徒のひとりは黙っている。


「はい。楽しみです」

「久方ぶりの竜討祭。ヨッホホホホホカン。ヨッホホホホカン」

「はい」


聖女は思った。


(なんでこの豚。甘ったるいヨウカンみたいな匂いがするっスか」


役者が揃う竜討祭。



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