第51酒:竜討祭1・竜討祭反対過激派の集会で酒飲んでいるオッサン。


竜討祭まで残り1週間。

ジークフォレスト周辺はとても慌しくなっていた。

あまりに忙し過ぎて、縁の下の力持ちをしていた聖銀騎士団で倒れる者が続出した。

それはともかく竜を討伐する。万人が英雄と呼ぶ行為である。

万人は賞賛し万人は喜び歌い踊る。


だが世の中の全てが肯定しているわけではない。

もしそうならば泥沼の大戦なんて起きなかっただろう。

いつだって光があれば闇があり、イエスがあればノーがある。


そう。多くの者が待ち望んでいる竜討祭にも反対派がいる。

特に過激で厄介なのが竜保護団体『ドラゴンフレンド』だ。

保護団体とはあるが実力行使を平気でする過激派だ。

冒険者最高位の元至宝級冒険者が代表をしており、幹部も黄金級や純銀級が並ぶ。


ジークフォレストから離れたところに遺跡がある。

かなり大きな遺跡だが魔物が跋扈する森の奥にあるので知られていない。

そこに白い装束をした大勢の怪しい者たちが集まっていた。


「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」


遺跡には長いテーブルが並び、酒や肉や肉や肉などの料理が並んでいる。


「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」


特に多いのが酒だ。あらゆる種類の酒がある。

そして酒があれば、そうヤツがいる。


「あ? ドラゴンがどうしたって?」


ヘンリーは酒しか飲んでいなかった。そうヘンリーである。

今は白装束のヘンリーであり、その隣には白装束のテリがいた。


彼がここにいる理由。それは酒があるからだ。それしかない。

そもそもなんでヘンリーがジークフォレストから離れた此処にいるのか。

その経緯については色々とあったので割愛しよう。

此処にいる理由は、酒の匂いがする。そう言ってやってきたのがここだった。


「あわわわわっっ、ここ、ドラゴンフレンドですよっ」

「なんだそれ」

「知らないんですか! ドラゴンは友達を掲げるドラゴン過激保護団体ですよ」

「へえー、最強生物ドラゴンの保護とか面白いこと考えるんだな」

「……ちなみにオッサン。ドラゴンに勝てますか」

「あ? エンシェントとエルダーなら狩ったことあるぞ」

「レベルが違い過ぎて参考にならない!!」


ヘンリーは酒を飲む。決起集会の安酒だがヘンリーには関係ない。

ちなみにふたりの白装束は遺跡の入り口の受付で貸してもらったものだ。


「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」

「ドラゴンは友達!」


遺跡には石舞台があった。つまりステージである。

その上には大合唱する白装束の面々。それに歓喜する白装束の面々。

その中で酒をひたすら飲むヘンリー、それを白々しく見るテリ。

そしてステージの上で意気揚々とする進行役。つまり司会。


『いい流れになってきました。それでは登場してもらいましょう! 我らがドラゴンフレンドの代表。ドラコラス様です!』


その瞬間、大歓声に包まれる。テリは思わず、うるさいっと叫んでしまった。

だがその声は歓喜の海に沈んだ。


「やあやあ、どうもどうも」


白装束でフードを目深に被った青年は軽く挨拶した。


『ドラコラス様。今回の決起集会参加。ありがとうございます』

「はははっ、さすがに今回は参加するよ。なにせ竜討祭だからね」

『おそらく相手は竜殺しになると思います』

「楽しみだね。何百年ぶりの好敵手になることは確実だね。なにせあのカオスマウンテンのカオスデスクライシスカーストドラグンドラゴンを討伐したんだからね」

『おお、ドラコラス様の本気が見れるということですか!?』

「さあ、それはどうだろうね」


ステージは盛り上がっていた。

ヘンリーは酒飲んでいう。


「なんでどいつもこいつもスラスラとカオスなんとかを言えるんだ?」

「ドラコラスって冒険者ランク最高峰の元至宝級……【剣竜】のドラコラス!?」

「あ? 知ってんのか。ちっこいの」

「ギルド職員ですよ。当然じゃないですか。私をなんだと思っているんですか」

「ちっこいの」

「職業ですらない!?」

「つーかよ、そのドラコなんとか。あいつドラゴンだぞ」

「え?」

「しかもエルダーだな」

「エルダーってドラゴンの中でも数千年生きているっていう」

「しかもあいつはエンシェント一歩手前だ」

「えっ、でも人間ですよ」

「人化してんだろ。そういう魔法がある」

「そんなの初めて知りました」

「まあ、ドラゴンつーのは、支配者だってそれ以外の生物を見下して蔑んでいる大トカゲだからな。人に化けるとかも滅多にしねえんだよ」

「あー、そこの酒ばっか飲んでいるおっさん。ちょっと聞き捨てならないな」


ドラコラスがステージから大きな声でヘンリーたちに言った。


「あ? 数千歳におっさん呼ばわりされたくねえなあ」

『数千年?』

「何を言っているのかまったく分からないな。君たち。ドラゴンフレンドのメンバーじゃないね」


周囲がざわついて、ヘンリーたちの周囲から面々が離れる。

たちまち際立つふたり。


「あわあわあわあわっっっ」

「ああ、そうだ。ここには酒を飲みにきただけだ」

「それはあまりに豪胆だね。僕達がどういう団体か知っていてその発言かな」

「知らん。どうでもいい。俺はタダで酒が飲めればいい。それだけだ」


そう言って酒を飲む。

周囲のざわつきは戸惑いに変わる。


「ホントこのオッサンはブレない!」

「……酒だけでここに来たと言うのかい」

「あ? それ以外になにがあるってんだよ。安酒だがタダで飲めればそれでいい」

『あ、あの、ドラコラス様?』

「ひとつ聞こう。君はドラゴンをどう思っている?」

「あ? どう思うってそりゃあ、単なる大トカゲだろ」

「そうかい。死ね」


ドラコラスの姿が消え、ヘンリーの頭上に現れると手刀を落とす。

その一撃はまさに剣閃―――衝撃で大地が揺れ、土煙が上がった。


土煙が晴れると―――そこにあった光景に皆が驚愕する。

地面に転がり、ヘンリーに腹を踏みつけられたドラコラスの姿があった。


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