第48酒:スペースロクデナシVSギャラクシーチュパカブラ。


ログはガッツポーズする。


「どうだっ!」

「やったわ。ログ!」

「……ナイス……」

「凄いよ。ログ」

「へへへっ、どうだ。オッサササアアァァンン!?」

「あ?」


ログは驚愕する。

ヘンリーの周囲に大量のバロメッツヒューマノイドの死体があった。


「ちょっ、なによこれ」

「……マジっスか……」

「す、すごい」


他の3人も気付いた。


「なんだよ。酒ならねえぞ。だからおまえら酒ねえか?」

「ないわよっというかどういうことよ」

「いつの間に……」

「やっぱオッサンやべえ」

「…………」

「あ? ああ、こいつらか。見学してたら鬱陶しくてしょうがなかった」

「そんな蝿を払うみたいな感想なの」

「こっちは苦戦したっていうのにな」

「まあまあ」

「しかしよお。おまえら。最初の頃から思うと見違えるほど強くなってんなぁ」

「そ、そうなのか」

「これ見てそう言われてもぜんぜん嬉しくないんだけど」

「……道のりは遥か……」

「ありがとうございます」

「今のおまえらならゴブリンの巣の討伐もデージョウブだなぁ」

「ここ。そのゴブリンの巣なんだけど」

「まあ普通の巣じゃないっていうのはあるよな」

「……ゴブリンじゃない可能性も……」

「はははは……」

「んじゃあ行くか。酒も無くなっちまった。とっとと出るか。酒を探すぞ」

「とっとと出るに決まっているでしょ。ホントこの酒クズなんだから」


ヘンリー達はバロメッツヒューマノイドが来たところから細い通路に入る。

通路の先は下る階段になっていた。


「そーいえばよう。うるさいのいつの間にか消えてね?」

「気付かなかった」

「良かったじゃない」

「……騒音反対……」


そう、何時の間にかサイレンが消えていた。

ゆったりとした階段を降りていく。


「んなのどうでもいい。はぁー酒の匂いがしねえ」

「なに言ってんだこのオッサン」

「酒の匂いなんてわかるわけないじゃない」

「そいつは生意気娘。おまえが単に乳くせえガキだからだ」

「なんですって!? <こいつを徹底的に切り裂け。風の死に」

「アーミス! そんなことしても無駄だよ!」


ルークが止める。クルフは無視。

ログは馬鹿馬鹿しいと横目した。


「あー酒が、ん。なんだ」


通路の奥で剣戟が聞こえる。

向かうと、とんでもない光景が彼等の目に入った。


『クィーーーンっ! チュパカブラァクイィーーーーンっっっ』


そう鳴きながら黒いチュパカブラがディンダに向かって腕からトゲを伸ばす。


「見切ったでござる。ぬ!?」


『ギャラクシイイイィィッッツ』


真っ赤で大きなチュパカブラがディンダを奇襲する。

地響きをたててディンダは吹き飛ばされた。


「あっ、ディンダさん!?」

「なんなんだあれ? おい。アーミス。なんだあれ」

「聞くなっ! 知らないわよっ!」

「……チュパカブラ……」

「クルフ。知っているの?」

「……そう鳴いてた……」

「ああ、うん」

「あっ、オッサン! それとひょっとしてホークの集い?」


テリが早足で接近した。

なおディンダはすぐに立ち上がって応戦している。笑っていた。恍惚とした笑みだ。

ヘンリーは聞く。


「よう。ちっこいの。なんだこのバカ騒ぎ。あと酒ねえか」

「言っておきますけど私は一切何もしていません。まったく、あの面白ぇ女がござるござると笑いながら、こっちが止めるのも聞かずにドンドン好き放題に向かっていった結果です。なんなんですかあのひと。あれで本当に黄金級ですか!? あと酒なんてあるわけねえだろ」

「ケッ、使えねえなぁ」

「そもそも未成年なんですけど!?」

「それじゃあ持ってないですよ」

「未成年じゃなくても普通持ってないんですけど!?」

「あれで本当に黄金級なんだよなぁ」

「……頭が面白ぇ女……」

「それであの化け物たちはなんなの。ついでにあんたもなに?」

「テリです。ギルド職員です。あの化け物たちは、ディンダさんが何か薄暗い妙な部屋に並んでいた変なガラス容器に入っていたのをぶち壊したら出てきました。周りにいる銀色のゴブリンは必死に止めていましたけど」

「———その通りだ」


後方から渋い声が聞こえ、振り向くと銀色のゴブリンがいた。


「喋った!?」

「銀色のゴブリン!?」

「あのゴブリンだ」

「———愚か者どもめ。サンプルの分際でよくもこんな真似をしたものだ」

「なんか偉そう」

「我々は実際、偉い。それよりもどうするつもりだ」

「なにがだ?」

「なんなの?」

「…………」

「んなことより酒はねえか」

「酒? いったい何を?」

「このオッサンは無視していいから、どうするってどういうことですか」

「チュパカブラクイーンとギャラクシーチュパカブラのことだ。あの二つの戦闘生物兵器は調整中だった。それを壊してはもう制御は不可能だ。あの2体は強い。かのドラゴンに勝らず劣るぞ」

「勝らず劣るならドラゴンより弱いってことだよな」

「なんで自慢したんだ?」

「ドラゴン殺しのディンダさんなら勝てるか」

「オッサンもいるしな」

「あ? 酒か?」

「誰も言ってない!」

「少なくとも僕達には何も出来ないよ」

「まあ、さすがにあんな化け物は相手は無理だ」

「そうよね」

「……無理めすぎる……」

「ふん。愚かなサンプルどもだ。我々も何もすることは出来ない」

「役立たずじゃねえか」


ディンダがまた吹っ飛んだ。

壁に激突して転がって、また立ち上がる。額から血が流れていた。

だがディンダは笑っていた。遊びではしゃぐ子供みたいな表情だ。


「はぁー愉快でござる。これほど楽しいのはヘンリー殿とやりあった以来か、カオスマウンテンのカオスデスクライシスカーストドラグンドラゴン討伐以来でござる」


しかし。ディンダはヘンリーを見た。


「ヘンリー殿、頼みがあるでござる」

「あ? 酒か?」

「そう酒でござる。この面妖どものどちらか1体を相手してくださければ、酒と某とキャサリンと、ついでにそこのちっこいのとアーミスとクルフも今宵の夜伽に付けるでござる」

「はあああああっっ!?」

「……ついで扱い……」

「なに言ってんだこの某!?」

「いや酒だけでいい。他はいらん」

「というかこの場にいないゴルドブルーさん付けるの酷くないかな」

「なんか羨ましくねえ面子だなぁ……痛てえっ、痛いっ」


ログはアーミスとクルフに叩かれた。


「だからログはモテないのよ」

「アーミス。てめえぇ」

「……カナナさんの名前がそこに無いところに女を感じる……」

「あっ確かに」

「うわぁ、ライバル認定している」

「えーと……ルーク。どういうことだ?」

「なんでルークに聞くのよっ」

「つまり、ディンダさんはカナナさんを本気でライバルと思っているから意図的に外したんだよ」

「うっわぁ、怖ぁ……」


ログは本気で引いた。


「外野がなにやらうるさいでござるな」


かなり強くディンダはクイーンを押し切る。感情が大きく乗っていた。


ヘンリーはゆっくりフラフラっと近付いていく。


『チュパカブラクイイイィィィィィンっっっっ』

『ギャラクシイイィィーチュパカブラアアアァァア』


大絶叫するチュパカブラクイーンとギャラクシーチュパカブラ。


「おい。面白ぇ女。酒だけでいい。余計なの付けるな」

「あはははっ、相変わらず、つれない御仁でござるな。だがそれがよし。某は諦めぬでござるよ。さあ、今は行くでござるっ!」


ディンダはチュパカブラクイーンに切り込んだ。

何本も伸びるトゲを切って、今度はチュパカブラクイーンを押し込んで飛ばす。


『クイイイイィィィーーーーーンっっっっっっ』


「ディンダさんも女なのね」

「そりゃあそうですよ」

「……あれはアブナイ女……」

「やっぱ羨ましくねえなぁ」

「はははは……」


『ギャラクシィィイ』


真っ先にギャラクシーチュパカブラは【彼女】を助けに向かう。


「おっと、てめえの相手は俺だ。なんかよくわかんねえの」


ヘンリーは切った。

ギャラクシーチュパカブラの二本の腕を切断する。


『ギャラクシイイイイィィィィっっつっっっ』


ギャラクシーチュパカブラは絶叫する。

真っ赤な身体。腕は六本で脚も四脚。

トサカのようなトゲを背中から尻尾まで生やしている。

四つの瞳は闇よりも深く黒い。その大口は剣より鋭い牙で覆われていた。

そしてその爪は上等な妖刀に匹敵する切れ味をしていた。


「あ? ギャラクシーってなんだ。セクシーの進化系かぁ?」


『ギャクシイィイイイイィィィィ』


ギャラクシーチュパカブラは腕を再生させると腕の爪を剣のように伸ばした。


「生えたっ?」

「きもちわるっ」

「……生理的嫌悪……」

「これはひどい」

「おぉー、なんか便利だな」


交差させてヘンリーに突撃する。


『ギャラクシイイィ、ギャラクシイイィ、ギャラクシイイ、ギャラクシシイィィーーーチュパカブラアアアアアアアア!!!!』


六本腕の猛攻撃だ。

眼にも見えない速さであらゆるものを切り刻んで引き裂くだろう。

大いに脅威である。

だがそれは相手がスペースロクデナシではなければの話だ。


「雑過ぎんだろっ」


ヘンリーは一撃で六本腕を薙ぎ払った。


『ギャラクシイ!?』


「いいか。てめぇは六本も腕がある。その分だけ遅くなってんだよ」

「そ、そうか?」

「えっ、速過ぎて見えなかったよ」

「だからこのオッサン。むかつくのよっ!!」

「……ちょっとだけ見えた……」

「すげえっ」

「いや別に見えなくても……ああ、そういえばあなたたちは冒険者でした」


強くなることを常に持つ。それが冒険者だ。


「馬鹿な……っ!?」

「まだ居たんだ。銀ゴブ」


『ギャラクシアンチュパカブラッッ!!』


ギャラクシーチュパブラは再び六本腕で乱撃する。

ヘンリーはひとつずつ腕を切り落とた。


「だからおせえ。雑だってんだろ。切るっていうのはこうすんだ。落雁」


ヘンリーはギャラクシーチュパカブラの首を刎ねたまま肩口から斜めに斬り落とし。最後に一刀両断した。銀色のゴブリン・アルファは呻いた。


「なんと恐るべき強さ……やはり銀河を超えるか……スペースロクデナシ。だがギャラクシーチュパカブラは真っ二つにされても再生するぞ」


しなかった。

そのままギャラクシーチュパカブラは真っ二つになったままグズグズに溶けた。


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