第47酒:そう後方腕組みオジサンだ。

無事にホークの集いを救出したヘンリー。

次はディンダとテリだ。


「なんなの。この建物」

「変なところだなあ」

「こんな建物、今まで見たことがないです」

「……まるで世界観が違う……」


どこまでも続く水色の壁と灰色の通路。松明も無いのに明るい天井。

ホークの集いもヘンリーもこんな建物は初めてだった。

やがて×字型の切り口が目立つエネルギー障壁を見つけた。


「切った!?」

「こいつは面白ぇ女の仕業だなぁ。さすが面白ぇ」

「ディンダさんが―――彼女も魔法障壁を切れるのか」

「すげえ。竜殺しすげえ」

「……やりおる……」

「んで、ぐびっ、どこ行ったんだ。あいつら」


ファーオン! ファーオン! ファーオン! ファーオン!


そのときだ。けたたましくアラートが鳴り響いた。


「な、なんだっ?」

「なんなのよ。もうこの酒クズオッサンがいつもいつもっ!」


アーミスはヘンリーを恨む。

ヘンリーは辟易した。


「待て。俺はなんもしてねぇぞ。こいつはあれだなぁ。面白ぇ女の仕業だな」

「ディンダさんが? でもディンダさんならやりかねないか」

「……あれは戦闘狂……」

「つーか、これどっから鳴ってんだ?」


ファーオン! ファーオン! ファーオン! ファーオン!


「やっかましいなぁ。酒がマズくなるだろ」

「それはたぶんないわね。でもうるさいのは分かるわ」

「とにかく、この先に行ってみましょう」

「…………」

「おい。なんか向こうで蠢いてねえか?」


言いながらログは槍を構える。

赤黒い何かヌメヌメとしたものが蠢きながら近付いてきた。


全部で4体。それはヌメヌメとしたスライムに見えた。

しかし次の瞬間、それは姿をあらわす。


羊の頭だ。


刹那、ヘンリーは嫌な予感がした。


『バロメエエエエェェェェェェェェェツ』


羊の頭が鳴くと一斉に伸びて人型になった。背丈は成人男性ぐらいだろう。

筋骨隆々の身体だ。ただし両手が蟹のハサミである。


「うわっキモ!」

「なんだこいつ!」

「……バロメッツ……」

「いやいや、バロメッツじゃないよ」

「あー……いやコイツはバロメッツだ」


ヘンリーは苦々しい顔で、とりあえず猿酒をあおる。


「は? なに言ってんの。あんなのがバロメッツなわけないでしょ!」

「……バロメッツは蟹の味がする……」

「でもバロメッツって鳴いたよな?」

「ヘンリーさん。ひょっとして何か知っているんですか」

「あ、ああ……あいつらはバロメッツヒューマノイド補完計画の失敗作だ」


ヘンリーはかつてバロメッツ商会で読んだチラシを思い出す。

こういう心底くだらないことはよく覚えているオッサンである。


「はあああっっなんなんのよそれ」

「うさんくせえ」

「……失敗前提……」

「まあ失敗しているからね」


『バロメエェェェェッッッツ』

『メッツ』

『バロバロ』

『バロメッ』


バロメッツヒューマノイドたちが一斉にヘンリー達に襲い掛かる。


バロメッツヒューマノイド補完計画。

それはバロメッツを人型にして労働力にしようとした計画だった。

実際、他に比べてなかなかにうまくいっていた計画だった。

だがたったひとつの致命的なミスで計画は凍結される。


両手が蟹のハサミでは物が持てない。


ならば普通に人の手にすればいいだろう。

しかしそれではバロメッツではない。


何故ならバロメッツは蟹の味がするからである。

かくして失敗作の烙印を押されて処分された……はずだった。


それがどうしてこんな場所に居るのか。


「あー……」


面倒くさそうに前に出るヘンリー。


「待ってくれ。オッサン!」

「あ?」

「ここは俺たちがやる」

「ログ?」

「そうだろう。ルーク!」

「う、うん。そうだね。僕達が成長した姿をヘンリーさんに見て欲しい」

「……確カニ……」

「そうね。このオッサンは一度ぎゃふんと言わせないと気が済まないわ」


ヘンリーの前に出るホークの集い。

武器を構えてバロメッツヒューマノイドたちを迎え撃つ。


「……じゃ、任せるか」


ヘンリーは後方で腕を組んで壁に寄り掛かった。

そう後方腕組みオジサンだ。

気楽に酒を飲む。そろそろ飲み干しそうだ。


ログは槍を構えて、ルークも剣を抜く。

アーミスはバロメッツヒューマノイドたち杖を向けた。


「いつも通りにやるわよ」

「おう」

「うん」

「……うむ……」


まずクルフが死角から矢を放つ。


『バロメッ!?』

『バロバロ!?』

『メツ!?』


バロメッツヒューマノイド1号。2号。4号が足止めされる。


「<切り裂け。風刃>!」


すかさずアーミスの杖から風の刃が放たれた。

足止めされていないバロメッツヒューマノイド3号に直撃する。


『バロメェェェッッ』


だが硬いハサミに当たって致命傷に至らない。

しかしその隙にログが3号の腹を槍で刺した。まずは1体。


『バロバロ!』

『バロメッ!』

『メツ!』


1号。2号。4号が動こうとすると、クルフが矢を放つ。

次は2号と4号が足止めされた。


「<穿て。火突>!」


杖を突くようにすると火が残った1号を貫くが、やはりハサミで阻まれる。


「でええぇいっっ」


その隙をついてルークが斬った。残り2体。


「へぇー、ヘッピリだが割とやれんじゃねえか。気弱」


このまま1体ずつ仕留めていくのかと思ったが。

今までと同じクルフが2号と4号の足止めをし、できなかった。

4号がハサミで矢を弾いて、アーミスに襲い掛かる。


「やらせるかっ!」


ログがハサミを4号を、槍で受け止める。


『バロバロメッツ!!』

「うおぉっ!?」


4号の猛攻でログは後退する。

その間に2号がクルフに向かっていった。


「……狙撃……」


クルフが矢を放って、今度は2号を足止め出来た。ルークが接近する。

だが2号はクルフにハサミを向けて、ハサミが飛んだ。


「ウッソだろ!」

「……不覚……」

「させるかっ<切り裂け。風刃>!」


風の刃がハサミにぶつかった。大きく弾く。


「だあああぁぁっっっっ」


ルークが2号を斬った。

しかし浅い。2号が残ったハサミでルークを襲う。


「このっ」


ログも苦戦していた。

ヘンリーはその様子を猿酒を振って眺めている。


「最初は完封できたがってところか」


猿酒はもう殆どなく、今は詰め込んだ発酵果物などを振って崩していた。


「<燃えろ。火弾>!」


火の弾が2号の羊頭に直撃して焼いた。


『バロメェェェェェッッッッ』


暴れる2号。ルークは息を整えて剣を構える。


「柔らかく硬く……すぅ、セイィィッ!!」


2号を鮮やかに袈裟斬りして倒した。

残り1体。


「やったわね。ルーク」

「できた。僕にもできたんだ……」

「……お見事……」

「ヘッヘヘヘヘッッッ、やるじゃねえか。気弱」

「ちょっと、こっち結構、このやろおぉっ!」


ログは4号のハサミを槍の柄で押し返す。


『パロバロメツ』

「はぁっ、はぁっ、ちくしょうが」

「……援護……」

「いらねえっ!」

「ログ!」

「誰も手を出すな。こいつは俺だけで倒すっ!」

「ログ……わかった。がんばって!」


ログは槍を回し、構えた。


「任せろ。リーダー」


槍を背に預けて足を一歩前に出す。


「……あの構えは……」

「えっ知っているの?」

「……降竜の構え……」


本当に最後に残った4号。

バロメッツヒューマノイド4号も構える。

片脚を上げて両手を広げた。支えている脚で軽くリズムをとっている。


「……あれは……」

「えっ知っているの?」

「……ゴリラの構え……」

「あんた。てきとうに言っているんじゃないでしょうね」

「まあまあ」


先に動いたのはバロメッツヒューマノイドだ。

なんとハサミを横に動かし、残った脚を軸にして回転し始めた。

段々と嘘みたいに回転速度をあげる。


「……あ、あれは……」

「はいはい。もういいわよ」

「……グルグル回転拳……っ!」

「そのまんまだ」


4号はコマのように回って回って、歪曲するようにログへ攻撃する。

ログは槍で受け、その反動で後退した。


「グッ、なかなかトリッキーなことしてくれてんじゃねえか」

「だいじょうぶなの」

「ログ」

「…………」

「まあ見てろ。攻略法は分かった」


苦笑して槍を逆さに持つ。銛を突くような体勢だ。

4号は大回りしながらログへ迫る。


「そこだ!」


ログは4号が急カーブしたとき跳び跳ねながら槍を放った。

狙いは足。急激なカーブで回転が少し雑になり回転軸の足が少しもたついた。

そこに槍が刺さる。


『バロメエェッツッツ』


バロメッツヒューマノイド4号は壁に衝突する。

ログは槍を拾うと壁にぶつかってダウンしている4号にトドメを刺した。


ホークの集いはバロメッツヒューマノイド4体をたおした。


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