第45酒:あんたさては酔いが回っているな!

ヘンリー達はエビルマウンテン真下に来た。

それはまるで黒い壁のようだ。ディンダがぼそっと言う。


「この山、変でござるな」

「変ですか?」

「あー、なんか造り物っぽい感じがあるなぁ」

「そんな山ですよっ」

「いっちょ、斬ってみるか。ヘッヘヘヘヘッッ」

「山だぞっ!? どっかに登山道がありますよっ」

「それもそうでござるな」

「だな」


んぐっとヘンリーは酒を飲む。

テリは気付いた。


「あれ? 酒は無くなったはずじゃ」

「新しい酒だ。ちっこいの。面白ぇ女。猿酒って知ってるか」

「知らないでござる」

「私も」

「猿がなぁ。木の穴に果物とかを溜めるんだが、それを忘れて自然発酵して酒になることがあんだよ。それが猿酒だ」

「なるほど。それで先程、木の穴に手を入れていたのでござるな」

「頭がおかしくなったと思いました。元々だけど」

「つーわけで酒はある。いいか。どんなところにも探せばある。それが酒だ」

「はいはい」

「ふむ。勉強になるでござる」

「なるか!?」


そんな感じで割とグダってヘンリー達はエビルマウンテンを回る。

途中でチュパカブラと遭遇するが、テリが狙われるくらいだ。


「なんで私だけ!?」

「ちっこいからなあ」

「弱いからでござる」

「獲物は弱いものから狙う。まぁ基本だ」

「た、確かに弱いのは事実ですけど、これでも魔法使えるんですよ」


テリはアピールする。


「ほう。それは大したものでござる。色は」

「へっへへヘヘヘッッッ、パンツの色は?」

「水色。土色。風色。闇色です。あと水玉です」

「ほう。四色」

「水玉かぁ」

「うえっ!? さりげにセクハラすんなオッサンっ!」


テリは頬を真っ赤にして怒鳴った。

ヘンリーは汚く笑う。変質者の笑みといってもいい。


「ヘッヘヘヘヘッッッ、しかもよぉ。あー器用貧乏じゃねえかぁ」

「器用貧乏言うなっ!!」


ガルルルルっとテリは吠えた。


「はははは。愉快でござるな。む?」

「愉快じゃない!!」


ディンダが止まった。

テリも足を止め、ヘンリーは訝しんだ。

そこは少し荒々しい岩場で向こう側が岩に隠れて見えない場所だった。


「向こう。なんかあるなぁ」

「えっ」

「某が先行してみるでござる」


ディンダが先に進む。

ぽつんと残されるふたり。


「あのー。私、ちょっと思ったんですけど」

「あ? なんだ」

「今回の依頼。思った以上にヤバイと思うんですけど」

「ああ、変なの出て来たしな」

「ホークの集い。無事なのでしょうか」

「さあな。確かめないと分からねえよ。どんなことになってもな」

「……はい」


ディンダが戻って来た。


「洞窟があったでござる。それもかなり大きいちょっと面妖な洞窟でござる」

「じゃあそこだな」

「面妖?」

「うむ。ちょっと不思議な洞窟でござる」

「ごちゃごちゃ話してもしゃあねえ。行くぞ」


向こう側へ足を踏み入れる。

確かに洞窟はあった。

とても大きな洞窟で一部が滑走路と発着場になっていた。

洞窟の内側は銀色に光る装甲版で覆われ、パラボラアンテナが設置されている。

光る赤い球が不規則な軌道で絶えず動いて、三角形の物体が上空で回転していた。

それとどこから光が降って来て牛が攫われている。

ついでにチュパカブラも巻き込まれていた。


「あー……あ?」

「え……」

「ふむ。ちょっと不思議でござるだろう」

「どこがちょっとだああああっっっ!?」


テリの叫びが木霊する。


「おい。見つかるぞ。あー別にいいか。片っ端から切りゃいい。酒もありそうだ」

「むしろドンっと来いでござる。良き修行になるゆえ」

「あんたらなぁ―――……って来たあ!」


彼等の上空に銀色の円盤が出現した。


「ちょっ、なにっあれ」

「少なくともドラゴンではないでござる」

「どう見てもドラゴンじゃない!」

「……酒じゃねえよなぁ」

「んなわけねえ。あんたさては酔いが回っているな!」


銀色の円盤から瞬くような閃光が放たれ、ヘンリー達はその場に気絶した。






銀色の円盤内部。

サンプルルームに銀色のゴブリンが3匹集まっている。

銀色のスーツと大きなアーモンドみたいな黒い瞳をした灰色の彼等はグレイという。

スペースゴブリンである。

スペースゴブリンは宇宙のゴブリンである。

そうつまりゴブリンである。


『アルファ。これが新しいサンプルです』


三つのカプセル。薄緑色の液体に満たされていた。

その中には裸体の男女が入っていた。


『うむ。現地人のオスが1体。メスが2体か』

『またボウケンシャというやつか』

『そうですがなにか。ベータ』

『観察している連中だけでは不満か?』

『ベータ。サンプルはいくらあってもいいんです』

『ガンマの言う通りだ。ベータ。サンプルはいくらあってもいい』

『わかった。サンプルはいくらあってもいい』

『では説明していきます。まずはサンプル№0044。メス。小さい』


テリである。


『確かに小さい』

『うむ。小さい』

『我らと同じぐらいか?』

『サンプルで一番小さいんじゃないか』

『ガンマ。このメスは何歳だ』

『はい。測定したところ10歳以下です。ベータ』

「納得した」

『ガンマ。他に特筆すべきことはあるか?』

『ありません。このサンプルに関してはこれだけです。小さい』

『小さい。では次だ』

『サンプル№0045。メス。成人』

『ほうこれは』

『ほほう。これは』

『説明を頼む。ガンマ』

『はい。このメス個体0045は現地調査した結果、ドラゴンを単独で討伐できる特殊個体だと判明しました」


ディンダのことである。


『ドラゴン……あのドラゴンか。ガンマ』

『あのドラゴンです。ベータ』

『メス個体だが戦闘能力が高いのか』

『はい。アルファ』

『あのドラゴンを……か』

『はい。ベータ。それでは次のサンプル0046。オス。成体』

『ふむ。オッサン』

『オッサンだ』

『オッサンです』

『オッサンでしかない。ならば説明は必要ないな』


ヘンリーのことである。


『いいえ。説明は一番必要です。アルファ』

『何を言うか。こんなオッサンに対して言うことは』

『彼はスペースロクデナシです』


そのとき全員に電流がはしる。


『スペースロクデナシ……だと……!?』

『はい。スペースロクデナシです』


スペースロクデナシは宇宙のろくでなしである。


『ガンマ。あのオッサンがそうだと言いたいのか』

『はい。その通りです。ベータ』

『馬鹿な』

『まさか……銀河すら超えたか……』

『アルファ。サンプルは以上で御座います』

『ガンマ。スペースロクデナシの個体名称は?」

『現地情報ではヘンリーと言います』

『ヘンリー? ヘンリーといえば蛇腹のヘンリーだな』

『彗星落下のヘンリーも有名だ』

『ヤツは死にました。デルタに撃ち抜かれました。ここはヘンリー・リーでは』

『ベータ。海賊ギルドの幹部の名を出すな』

『もうしわけありません。アルファ』

『ならばドブのヘンリーだろう』

『よもや。アルファ。そうきましたか』

『待て。アルファ。その個体は死んでいる。リトルスネークピスで死んだ。髑髏を胸に抱いて死んだ』

『そうか。髑髏か……スネークリトルピスに乾杯』

『それでアルファ。この3体のサンプルはどうしますか』

『ガンマ。経過観察だ。元に戻して檻に入れておけ』

『わかりました』

『いいのか。スペースロクデナシは宇宙のろくでなしである。だぞ』

『ガンマ。スペースロクデナシといえど此処では何もできません』

『ヤツの装備に剣があるぞ』

『剣? たかが古代の金属棒ですよ。心配いりません』

『その通りだ。しかし隔離はしておこう」

「はい。アルファ」

「それにしても、まさか……銀河すら超えるとは……』


アルファは気に入ったのか。そのセリフを噛み締めていた。








ヘンリーは目覚めた。


「あ?」


するとそこは無機質な部屋だった。

とりあえず酒を飲む。


「また変なところに居るもんだ……」

「あれ、オッサン?」

「ヘンリーさんだ」

「なんでよりによってこのオッサンが……」

「…………」

「あー……よう。おまえらか」


声がするほうを見ると、薄い緑色の半透明な壁の向こうにホークの集いが居た。



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