第44酒:気持ち悪いなコイツ。ひたすらにキモい。

イヤオの村の酒場で酒を仕入れ、さっそくチイジュンの森に入る。


「普通の森だな」

「そうでござるな」

「……あのーいま気付いちゃったんですけど」

「なんだ。ちっこいの。小便か」

「それなら向こうの草むらでするでごさるよ」

「違うっっ!! なんだこのデリカシー皆無コンビはっ!?」


テリは顔を真っ赤にして怒った。


「あ? だったらなんだよ」

「私なんでここにいるのかってことですよ!」

「それは今更でござる」

「今いわれてもなぁ。村まで3日あったぞ」

「なんですかその反応!」

「だが一理あるでござる。どうしてテリ殿を持ってきたでござるか」

「持ってきた!?」

「そいつはなぁ、んぐっ、んぐっ、ぷはっ、あーなんでだっけ」

「飲んで忘れるな!」

「あ? ああ、思い出した。俺と面白ぇ女だと話が進まないときがあるからな。このちっこいのはそういう進行をやってくれるから便利だ。それに俺は気付いたんだよ。マスコットって必要じゃねえかと」

「ふむ。どういうことでござるか」

「俺みたいなろくでなしクズの酒浸りオッサンより子犬や子猫の方が接したいだろ」

「なるほど。某がキャサリンと一緒にいるのと同じでござるな」

「黒歴史女ってマスコット扱いだったのかよ」

「そういう一面もあるということでござる」

「嬉しいけどぜんぜん嬉しくねえ理由だった!? キャサリン?」

「ゴルドブルーの本名でござる。それとキャサリンは某より年上の28でござる」

「あの見た目でそれすげえなぁ」

「えっあっ?」

「なんだ」

「いま……草むらに何か」


テリが指差す。


「ふむ」


ディンダは両腰の剣を抜いた。


「おっ、前と違う剣じゃねえか」

「今頃、気付いたでござるか」

「あ? 抜いてねえのに気付いたら、ヘッヘヘヘヘヘッッッッ、それおまえのケツ眺めてたってことじゃねえか」

「言い方がひどい。笑いも汚い。下品!」

「ふふふっ、それもそうでござるな。臨時収入で新しくしたでござる」

「ドラゴン退治の金か」

「そうでござる。ヘンリー殿は剣を替えたことはないのでごさるか」

「あー、新兵のときは支給された剣だったが、こいつを手に入れてからずっとこいつだな。かれこれ20年ちょっとぐらいか」

「安物なのに随分使っている。というかそんなに保つ?」

「まあこいつは」


ガサガサガサガサッッッッ―――草むらが激しく揺れる。


「来るでござる」


草むらからそれは飛び出し、テリに襲い掛かる。

だがディンダが守って斬り付けた。


『チュパカブラアァァ』


それはすぐ草むらに逃げる。


「なんだありゃ」

「分からぬでござるが、緑色だったでござる」

「あの、助けてくれてありがとうございます」

「礼はいらぬでござる」

「カッコイイ……」

「だとしたらゴブリンか」

「今のゴブリン。トゲが沢山生えてたような」

「じゃあゴブリンじゃねえな」


『チュパカブラアアァァ』


草むらから何か伸びて、テリを狙う。


「なんで私!?」


ディンダが切った。


『チュパアァ、カブラアァァァ』


それは赤い細長いストローみたいな舌だった。切られたところはウネウネと蠢く。


「うぎゃああっ、なんですこれ、キモっ!」

「舌でござる」

「ゴブリンじゃねえなこれ」

「ゴブリンでもゴブリンじゃなくてもどっちでもいい!」


『チュパァ……カブラアァ』


ゆっくりとそれは現れた。

緑色の小さな体に沢山のトゲ。顔の半分以上もある大きすぎる瞳。

口は細くストローみたいで斬られた舌は元に戻っていた。


「なにこれぇ気持ち悪いなコイツ! ひたすらにキモい!」

「面妖でござるな」

「どう見てもゴブリンじゃねえな」


すると木々がざわめいて草むらからそれらは続々と現れた。


『チュパカブラ』

『チュパ……カブラ』

『チュパチュパカブラ』

『チュパチューハカブラ』

『チュパカブラブラ』

『チュパカカブラ』

『チュパカブーラ』

『チュパパカカブラ』

『チュパチュパチュパカブラ』

『チュパカブラブブラ』

『チュパチユチュカブララ』

『チュパーカーブラ』

『チュチュパカブラ』

『チュパパカカブラ』


わらわらとチュパカブラが出て来た。

テリは絶叫する。


「うぎゃあぁぁっっっっ気持ち悪いいっっ」

「これはまた蟲みたいでござるな」


ディンダは嬉しそうだ。嬉々として両剣を構える。

ヘンリーは酒を飲んで、手前のチュパカブラを見る。


「チッ、無くなっちまった。おう。おまえ。酒持ってねえ?」


絡み出した。


『ち、チュパ?』

「酒だ。酒持ってこい」

『チュパカブラ!?』

「無茶苦茶だこのオッサン!」


『『チュパカブラアァっ!』』

『『チュパカブカブラーっ!』』


チュパカブラ達がテリに向かってきた。


「だからなんでええぇ!?」

「———多いと面倒でござるな」


ディンダは右手の剣を逆さに構えた。

肩幅に脚を開いて腰を少しだけ落とし、軽くステップする。

姿が掻き消えた。


右から3撃。左で4撃。右斜めに5撃。左横に6撃。

両打で、7、8、9撃。左斜めで10、11撃。両横で12撃。


「【両翼乱舞】」


左半回転で13、14撃。斜め右ステップで15撃。

斜め左ステップ16、17、18撃。

右回転で19撃。左半回転で20、21撃。

右左斜め上下半回転ステップで22、23、24、25、26撃。


それは静かに渦巻き斬る乱れ風だった。

目にも止まらぬ剣の乱撃は、まさに乱舞である。


チュパカブラの群れは全滅した。


「———こ、これが竜殺し……」

「へぇ、ちったあ腕を上げたじゃねえか」

「当然でござる。某はまだまだ強くなるでござるよ」


ディンダはニッと笑う。

ヘンリーはチュパカブラの死体を見て呟く。


「こいつら。結局、酒を持ってなかったな」

「持っているわけない!!!」

「テリ殿は元気でござるな」

「あ、頭を撫でないで、ってそれ犬とかにやるやつ!?」


ディンダにわしゃわしゃされるテリ。

かくして彼等は森の奥へ。やがてエビルマウンテンに近付く。

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