第41酒:凄いチカラの結末。

なんとかガリレオが勝った。






あれから5日後。

ジークフォレスト。歓楽地区。

高級娼館『ブルーメープル』。VIPルーム。


「……またここかよ」


ぼやきながらブランデーを手にするヘンリー。


「色々と考えましたが、やはり此処が一番ですわ」


ミールーン子爵家令嬢イシュカーナは珊瑚柄のソファに座っている。

貝を模したテーブルの上にあるのは蜂蜜酒ではなく紅茶だ。

今日もまたお美しい赤毛のお嬢様だ。


「おっ、今日は爆弾女はいねぇのか」


妙に静かだとヘンリーは思った。

こちらもいつも通りチンピラ平民スタイルである。

場違い感はもはや一見すると合っているのではというレベルまで場違いだ。


「ええ、彼女は領都に戻ってますわ」

「あ? どういうことだ?」

「そろそろ竜討祭ですの。彼女はホッスロー辺境伯の妹として出席しますわ」

「あーそういえばそうだったなぁ。まっ俺には関係ねえや」

「あら、そうですの」

「いつものように働かないで酒飲むだけだ」


そうブランデーを口にする。


ブランデー。

蒸留酒である。命の水や焼いたワインとも呼ばれる。

ワインだ。主な原料はブドウ。

一般的にブランデーといえば原材料がブドウを指す。

他の果物の原材料の酒はフルーツブランデーと称す。

そうするとブドウは果物じゃないのか論争が起きそうだが割愛する。


そもそも蒸留酒とは醸造酒を加熱して蒸留して造る酒のことだ。

ブランデーは醸造酒つまりワインを蒸留した酒である。

ということはブランデーはワインのキョーダイである。

他にも蒸留酒はウイスキーがある。

ということはブランデーはウイスキーの仲間である。


まとめるとブランデーはワインとキョーダイでウイスキーの仲間だ。

ブランデーはアルコール度数が高い。

なのでグラスにストレートやロックが普通だ。

また水やソーダで割ったりしてもいい。


「……これが凄いチカラですのね」


イシュカーナはテーブルの上に置いてある複数の手紙と書類をみつめる。


「ああ、そうだ。そのうちひとつは使った」

「リナートの件は聞いておりますわ。既に譲渡されていたのは概ね予想通りではありましたわね」

「ありゃあ一言でいえば誰かが隣国に確認取れば済むことだった」

「ええ、それに尽きますわ……」


イシュカーナの表情は険しい。


「そいつは貴族の仕事だ」

「怠慢でしたわ」

「まっ、そういうこともある」

「ですが、あってはいけないことですの」

「だな」


ふうっと息をしてイシュカーナは手紙を一通ずつ軽く読む。


「…………」

「どうだ。令嬢、使えそうか」

「ええ、いくつかのやり取りで実印が入ったものは今も効果がありますわ」

「なぁ、なんでよぉ、実印なんて入れてんだ? 非公式のヤバイ手紙だろ」

「実印は証明ですけれど、信頼と信用の証でもありますわ。相手にどれだけ信用している。信頼している。それを示すことにもなりますの。それでもこういう類はすぐ処分されますわ。保管は受け取った自分の身も危険に晒すことになりますから」

「そのリスクも呑んで、よっぽど信用できなかったんだろうなぁ」


ヘッヘヘヘヘッッッとヘンリーは皮肉に汚く笑った。


「―――ご苦労様でした」

「どうだ。役に立てそうか」

「はい。充分ですわ。これでロウルドを消せます」

「そうか」


ヘンリーは特に何も思わなかった。

ロウルドが死のがどうしようがどうでもいい。

だがこのブランデーはなかなかだと思う。


「やはり御礼を」

「いらねえ。まぁしいていえばこのブラン……おい。なんで脱ごうとしている」


ヘンリーはうんざりする。

イシュカーナは上着を脱いで胸元のボタンを外していた。

彼女の着ているドレス。

一見すると黄色で華やかで実際に花柄で薄くヒラヒラとして可愛らしく優美だ。

しかしこのタイプのドレスはブラが付けられないのでほぼノーブラだ。

つまりボタンを外すと胸が露わになる。

更にこのタイプのドレスは下着の線が見えてしまう。

なのでノーパンではないが紐みたいな、かろうじてパンツを履いていた。


「これだけの偉業。私では不満ですの?」

「そういう問題じゃねえ。爆弾女の毒気に当たったか」

「まぁ失礼な」

「俺は帰る」


ブランデー片手でVIPルームを出ようとするヘンリー。


「本当にありがとうございました」


イシュカーナは彼の背中に礼を言った。






1週間後。ロウルド司祭は破門された。

破門されて異端審問に掛けられる。

彼は無実を訴えたが確実な証拠を見せられると観念した。


そして消えた。

異端審問中の軟禁していた部屋から突然、消えたのである。




それから5年後。

ある盗賊がアジトにしていた洞窟の奥にあった牢屋で男性の全裸死体が発見された。

その牢屋は10年前にある女性の全裸死体が見つかった場所だ。

しかしそれを知る者は殆どいない。

ただひとりを除いては。





1か月後。

世間が竜討祭に沸く頃、リナートの町では戦後で初の町長が誕生した。


ヘイボーン=イタッテショウシミンだ。


ガリレオは今も路地裏ウスノロ通り。酒場『鉄ハ血潮ニ流レ亭』をやっている。

最近は町の空気が晴れるように少しずつ客が入ってきた。

そろそろ誰か雇おうかとも考えている。


ボロポは捕まった。

ついでに衛兵とか多くの名士と呼ばれる者や貴族たちが捕まった。

その捜査の手はガーゴまで及びそうになったが途中で止まる。

何かしらの権力が行使されたのだろう。

ボロポたちは大陸の孤島にある大監獄『マレブランケ』に送られた。


これらをカナナがヘンリーに説明した。

だが彼は酒飲んで興味無さそうにしていた。

実際、興味無かった。



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