第40酒:因縁の対決に今こそ決着を!町の未来を賭けて!ボロポVSガリレオ。

カナナはきょとんとする。


「どうして謝っているんですか。テリ」

「そ、それは、あの、カナナさんの弟さん。クソダサじゃなかった『焔侭』はええっと、あのオッサンが、あっオッサンなに暢気に酒なんて飲んでいるんですかっ! このクソアル中! というかなんで私が謝罪しなくちゃいけないんですか!? あんたがカナナさんの弟を空の星にしちゃったんでしょうがっっ!!」


テリはキレた。当然である。

ヘンリーはブランデーをラッパ飲みで嗜んでから言った。


「つーわけだ。許してくれ」

「ぜんぜん悪いと思ってねえ!」

「…………別にわたしは怒っていません」

「そうなのか」

「ええっ! そうだったのなら早く言ってください!」

「ごめんね。テリ」

「いいですけど、なんで怒ってないんです? 弟さん。星になりましたよ。このオッサンクズのせいで」

「そりゃあそうだが、しょうがねえだろ。向こうが襲ってきたんだからな」

「ええ、そういう結末だと思わなかったんですが、傭兵なら仕方がありません」

「そ、それでいいんですかっ? 星になったのに!」

「いいのです。弟があの悪名高き『焔侭』だったから覚悟はしています」

「悪名?」

「ボロポに聞きました。弟の所業の数々……弟はガーゴに取り入る目的で彼の護衛で懐刀と呼ばれた男を殺してボロポの護衛になったんです」

「やっぱりなぁ」

「そういう経緯だったんですか。でも悪名って懸賞金が」

「テリ。大丈夫。弟は『焔侭』は悪名高いのはありますが懸賞金を懸けられる悪事や犯罪は奇跡的にしていませんでした。働くヘンリーさんみたいなものです」

「あぁーそれは悪名高いわ」

「あ? 俺は絶対に働かないが?」

「本物は最悪すぎる」

「傭兵として真っ当に生きてはいたみたいです。殺したボロポの懐刀は懸賞金が懸かっていました。あの血走り爪のヘンリーです」

「ヘンリーかよ……」

「知ってます。結構な額のヤツだ……強さは本物なんですね。アレでも」

「ええ。ですが傭兵稼業に殺しはあります。冒険者にも盗賊や護衛時の殺害も許可されています。ですが、ここからはギルドの受付嬢ではなく、ジェイムズの姉として言わせてもらいますと……やはり弟が人を殺すのは嫌です」


まっすぐヘンリーに言って涙を浮かべる。


「カナナさん」

「ですから弟がこんな最期を迎えるのは報いに」

「いや死んでねえからあれ」

「え」

「切ってなくて打ったからな。ひょっとしたらと思ったから殺してねえぞ」

「だからって星にしなくても」

「まともに戦って無力化は面倒だったからなぁ。あんなどう考えてもふざけやがってな格好だが、あれは強い。さすがはひとつ火色の使い手。切り札もあっただろう」

「ヘンリーさん……」


カナナは感動する。

すかさずテリが言った。


「だけどセンスは壊滅でしたね。弟さん。なんでしたっけ。名乗りが『我が炎は全てを焼き尽くす。悉く焼き尽くす黒き炎。我が名は焔侭。黒の覇焔!』って」

「えっ……」

「まぁ見た目はああでも16歳のガキだからなぁ……」

「それでも酷すぎですよ。暗黒焔侭★竜魔侭剣とか剣に名付けたり」

「本物の魔剣だけどな」

「…………」

「それと魔法唱言も赤面ものですよ。『我が手よ黒く燃えよ! その禁忌を放つ。黒きイグニスファイア!!』って炎ぜんぜん黒くないし、あとイグニスとファイアで火が被っているし」

「そうなのか」

「イグニスって古代テンラ語で火って意味なんですよ」

「あーまぁ、そういう年頃だろ」

「……ぅ……」

「おまけに『我が黒き焔の閃光を受けよ! イグニスブレイバァーーー』……ブッハァッ、いやもう、笑いそうになりました。ぶっはっっっ」

「笑ってるぞ。あー、ブレイバーか。懐かしいなぁ。村の6歳のクソガキがなんにでもブレイバーって言ってたの思い出したわ」

「弟さんは16歳で言ってましたね」

「……ぁぅ……」

「でね。一番ヤバいのはあれですよ。えーと確か『我が名は焔侭。悉くを焔で侭と為す者。我が焔は我が魂。我は焔。焔は我。終局黒★焔侭転身☆!』で、これがもう『黒焔ノ☆イグニス★エンジン仮面★』ですよ。ダサすぎて死んだ方がマシだと本気で思ったわ。てか言ったわ。死んでほしいぐらいって」

「……………………」

「あーそれなんだがよぉ。あいつにしては手抜きって感じがするんだが」

「んー、確かに★とか増やして誤魔化しているのはありますね。ネタ尽きたんじゃないんですか? 元々ワンパターンだったし。本人はこれでシンプル・イズ・ザ・ベストとか自分を納得させたんだと思いますよ。ああいうのほどそういうところあるんですから、だからダサいんですよ何もかも」

「なんか分からんでもない。にしてもよく覚えているな。ちっこいの」

「えへへっ、記憶力だけは昔から自慢できるので」

「頭ちっこいのになあ」

「それ! またそれよく言われますけど! ぜんぜん関係ないですって、どうしたんですか。カナナさん!?」


カナナは土下座していた。

耳まで真っ赤にして土下座している。


「…………お、弟が……本当に……もうしわけなくごめんなさい……」

「いやいやいやいや、カナナさんは何も悪くないですから」


テリはカナナを立たせようとする。

ヘンリーはブランデーを飲んでぼそっと呟いた。


「身内の恥ってやつか」

「ちょっと、やめてください! オッサン《身内の恥の権化》に言われるのはさすがに弟さんが可哀そうじゃないですかっ! 一応人権があるんですよっ!」

「テリ。弟はちゃんと人権ありますから……」

「ご、ごめんなさい。つい」

「んじゃあ、まっそういうことで帰るか」

「このオッサンは……」

「わたしも……今すっごくお酒が飲みたい気分です」

「じゃあ店主の店に行くか」

「私もドカ食いしたい気分っ」

「ちっこいからなぁ」

「そういう意味じゃないっ!」


こうしてヘンリー達はボロポの屋敷跡を後にした。


「なにか忘れているような気がして」

「酒じゃねえのか?」

「それしかないのかあんたは!」

「……気のせいでしょうか」

「気のせいじゃねえの」

「気のせいだと思いますよ」

「そうですか」


カナナは気にしないことにした。

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