第34酒:バロメッツ商会④・カタストロフはやり過ぎですか。
バロメッツ商会は二階建ての建物だ。
横にやたら広いので部屋数が多い。
面倒だがヘンリーとカナナは一部屋ずつ入って調べる。
「さっきから何を探しているんですか」
「わからん」
「え? はぁ、ヘンリーさん。話してくれますか。あなたの野暮用とやら」
「……まぁいいか。話してはダメだって言われなかったからな」
ヘンリーは経緯を話す。
カナナは絶句した。頭を抱えて、ゆっくりと息を整えて口に出す。
「そんな簡単にこんなことを引き受けないでくださいよ」
「断ったらもっととんでもないことになっていたからな」
「ミールーン子爵令嬢と辺境伯の妹がこの町で―――確かにそれはそうですけど、そうすると今の町の騒動はヘンリーさんの仕業ですかっ!? またこのろくでなしの酒クズオッサンはまったく!」
「ちげえよ。これは俺も知らん。町に入った途端絡まれて隠れ家のこと聞かれたから逆に吃驚したぞ。偶然か誰かの仕業か。わからねえが俺のせいじゃねえよ」
「す、すみません。つい」
恥ずかしくてカナナは顔を真っ赤に謝罪する。
「別に気にしてねえ」
「でもなんでバロメッツ商会なんですか」
「隠れ家の手掛かりかなんか分からんが、日誌の隠れ家が書いてあったページの向かい側にそうあったんだ。バロメッツ商会ってな」
「なるほど」
「唯一の手掛かりらしいのはこれだけだ。あとは誰も入れないとか、もうダメだ。とかよくわからんことだけだな。廃墟なのは都合が良いかの悪いのか」
「なにもありませんからね」
「あるのは……紙の束だけだな」
ヘンリーは一枚の紙を埃だらけの机から手に取る。
『バロメッツ量産計画』
「本気でやろうとしていたんでしょうか」
「さあなぁ。しかも」
もう一枚の紙を見る。
『バロメッツを高級カニと偽って売る計画』
「冗談みてぇな詐欺だな……」
「倒産して当然みたいな商売やっていたんですね」
「やろうとして失敗したんじゃねえか。この有様だ」
「ロイヤルバロメッツ創造計画とか何を考えていたんでしょう」
「わからんしわかりたくもねぇなぁ」
『カタストロフバロメッツ降臨計画』という紙を見てヘンリーは唸った。
本当にパロメッツで何がしたかったのだろうか。
しばらく探していて問題が発生した。
「あー酒が切れた」
「そうですか」
カナナは淡白に返事する。
「チッ、なんもでやしねえ」
「ん? んん? ヘンリーさん。このドア。開きません」
そこは1階の真ん中の部屋だった。
これといって何もなく他の部屋と同じく紙が散らばっている。
ただひとつ他と違うのは地味机の下に小銭が落ちていたことか。
その部屋の右隅にドアがあり、それが開かなかった。
「あ? 建てつきが悪いだけじゃねえのか」
「鍵が掛かってますね。ドアにカギ穴があります」
ヘンリーもドアノブを握って回そうとしたがガチャっと回らない。
「どうしますか。鍵を探すとか」
ヘンリーはもう一度、今度は力を入れて回した。
ドアノブは変な音を立てて回り、ドアが開く。
「こうすれば開くだろ」
「そうですね」
カナナは疑問に思うことを辞めた。
部屋の中は木箱が積んであった。
どうやら倉庫のようだ。一番奥に金庫がみえる。
「……デカすぎんだろ」
「なんですかこの金庫」
その金庫は見上げるほど大きかった。
四角い黒い金庫で扉は鋼鉄製だ。ここまではどこにでもある金庫。
だがそれは身長172のヘンリーが上を見るほどでかい。
どこにこんな金庫があるんだっていうほどだ。
「こう怪しさしかねえのどうなんだ」
「でも、どうしましょうか。さすがにこの金庫は」
ヘンリーは剣を抜いた。綺麗な弧を描く剣先が倉庫の扉をとおりぬける。
鞘に仕舞うと同時に重い音を立てて鋼鉄の塊が開いた。
「こうすればいいだろ」
「えっと、あの、切ったんですよね?」
速過ぎてカナナはそうだとしか推測できなかった。
「あ? そうだが?」
「なんで開いてるんですか」
「切断したらあぶねえからな。金庫の仕掛け部分を軽くチョイとな」
「開けかた知っているんですか?」
「少しだけな。あとは勘だ」
「勘って……やっぱりヘンリーさん。デタラメすぎですよ。冒険者になるべきです」
「絶対に働きたくねえから断る」
「もう。だったらこういうこと、悪い事には使わないでくださいね」
「…………わぁってるよ」
今やっていることは悪い事じゃないのか? ヘンリーは一瞬だけ思った。
金庫は中身が無かったがこれだけのデカさなので小部屋ぐらいある。
「なにもありませんね。ヘンリーさん?」
「足元の音がおかしい」
「え?」
「金属音がしねえ。ちょっと下がってろ」
またヘンリーは剣を抜き斬る。
切断された床板は乾いた音を立てて落ちた。
「木だったんですね。これってギルドで言っていた鉄のコーティング」
木の板の表面だけ鉄の質感が、まるで本物みたいだ。
カナナは木の板を拾って感心している。
「腕が良いってこういうことだ」
もう一枚をどけると階段が見えた。
下に続いている。
「地下……ウソっ、それを隠す為にこの金庫!?」
「隠したっていえんのかなぁ」
余計に目立ってしょうがなかったはずだ。
カナナも呆れた半笑いを浮かべる。
「まあでもこんな金庫。持ち主じゃないと開けられませんよ」
「それもそうか。じゃ行くぞ」
「は、はい」
階段を降りる。
途中で螺旋階段になっていて、到着したのは薄暗い不気味な石の通路だった。
奥から呻き声が聞こえた。
リナート衛兵本部。地下牢。
「ボロポさんお疲れ様です!」
「おい。アイツは?」
「奥にちゃんといます。大人しいもんですよ」
「ああ、そうだろうな」
ボロポは呟いて牢屋の奥へ向かう。
そこにはひとりの男が鎖に繋がれ、だらしなく座っていた。
男はチラッと見上げる。
「よぉ、ボロポ」
「
「なぁ、煙草ねえか?」
男はにやりと笑った。
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