第33酒:バロメッツ商会③・それは魔ノ法である。
建物の中は湿った空気でホコリ臭かった。
壁と柱には苔とカビが生えて薄暗い。
「チッ、んだよ。どっかにランプねえのか」
「<ル・スフィア>」
カナナが唱えると彼女の手の中に光の球が生じる。
そっと浮かび上がり周囲を照らした。
ヘンリーは唖然とした。
「おい。ねえちゃん。あんた。魔法使えるのか」
「三つ色ですけど」
「へえー、にしても久々に聞いたなぁ。『
魔法。
魔法とは何か。それは『魔ノ法』である。
魔とは魔力である。なので正しくは魔力法という。
だが今は正式にも魔法と呼ばれている。
魔法はルールが多い。
まず大前提として魔法は魔力が無ければ使用できない。
それはそうだ。なので魔力が無いヘンリーは使用できない。
次に魔力があっても量がある一定を超えなければ魔法にならない。
量とは魔力の量だ。魔力は魂に宿る。
魂には魔力の杯があり、その杯の大きさで量が決まる。
魂の杯は鍛錬で大きくすることが出来る。
ただし明確に大きくする方法がまだ見つかっていない。
そして魔力が無いのは魂の杯が無いからだ。といわれている。
その魔力が魂の杯のある一定を超えていれば魔法が使用できる。
それを魔法行使量という。
次に魂の杯には『色』がある。
火色。水色。風色。土色。緑色。雷色。光色。闇色。全部で八色だ。
杯の色には『濃淡』がある。
色が濃ければ濃いほど魔法の威力や効果も強くなる。
魂の杯の色によって使う魔法は限られている。
火色だと火の魔法。水色だと水の魔法。
通常、魔法使いは魂の杯の色をふたつ持っている。
三つや四つは珍しく、ひとつは滅多にない。
ひとつの色はとても貴重だ。色は多くなると薄れていく。
ただひとつの色はとても濃い。それだけ魔法の威力と効果も強い。
次に魔法は『
簡単に言えば魔力を消費して魔法と為す。
その為の媒体が
声として発して魔力を代償にして魂の杯の色の魔法を現す。
唱え言う。
そして
代々魔法使いの家柄とかは代々伝わる
だが彼は言う。それは魂から発した言葉だ。俺の魂が震えて叫んでいる。
魂が唱え言えという。そうだから俺はこう叫ぶ。
『<我が手よ黒く燃えよ! その禁忌を放つ。黒きイグニスファイア!!>』
なお炎は黒くはない。
カナナは教える。
「色は火と光と風です」
「魔法使いだよなぁ。ひょっとして冒険者だったのか」
「いいえ。わたしには向かなかったんです。ギルドの受付嬢で充分ですよ」
ふふっとカナナは笑う。
「でも弟はそれで満足できなかったんですよ」
「……」
「戦争で村を襲われて流れるままにわたしたちはこの町に辿り着きました。ガリレオさんに助けてもらって何とか生活をしていて、やがて戦争が終わり。それでも生活は貧しかったんですがわたしは心が晴れた気がしました。でも弟は違ったんです」
「……」
「弟には魔法の才能がありました。たったひとつの色だったんですよ。火色でした。弟はその才能を力を振るって色々と悪さをして、そしてもっと力を震える場所を求めて町を出て行きました。風の噂では冒険者ではなく傭兵になったと」
「あー……まだ戦争が終わったこと知らないところもあるらしいな。それに終わったといっても納得できなくて小競り合いもあるって聞いた」
「……弟はまだ16歳なんですよ」
「ガキじゃねえか」
「出て行ったのは13歳のときですから」
「つーことは、ねえちゃんって今いくつだ?」
「ヘンリーさん。女性に年齢を聞くのは親しくないと大変失礼になりますよ」
カナナは眉根を寄せて非難する。
「おっわりぃな」
「22歳です」
「……へえぇ、弟とは離れてんだな」
「ヘンリーさんはなにがあったのか聞かないんですね」
カナナは心にあった疑問を口にした。
ヘンリーは言う。
「あ? それを話すかどうかはねえちゃんの自由だ。まぁでもよぉ。ねえちゃんにはなんだかんだぁこう世話になってるからなぁ。そのねえちゃんが困ったら助けるぐらい出来るかも知れねえ。助けるだからな。礼とかそういうのはいらねえ。貰ったらそれ労働になっちまうからなぁ」
「なんですかそれ」
「俺は絶対に働かないとこの剣に誓ったんだ。だから働かねえんだよ。そして酒を飲飲んで暮らすんだ」
そう言ってヘンリーはシードルを軽く飲んだ。そろそろ無くなりそうだ。
カナナはそんな彼の姿を見て、目を軽く閉じて口を開いた。
「……弟がこの町で捕まっていると聞きました」
「罪状は?」
「町中の殺人です。ボロポの部下を殺して牢に入っています」
「……なるほどなぁ」
「衛兵は案の定ボロポの味方でした」
「ああやって私兵も好き勝手できているからなぁ。ねえちゃんは弟を助けたいのか」
「当然です! ずっと長い間会っていませんでしたが、たったひとりの弟ですよ」
「助けるっていってもなぁ。正面からでも裏側でも脱獄させるのか」
「それはさすがに……本当に弟が殺したのでしょうか」
「ムシも殺せねぇっていうヤワな性格じゃねえんだろ」
「それは」
「傭兵やってんなら確実に人は殺しているだろうよ。ましてやひとつ色だ。それも火か。攻撃力はたけぇのはよく使える」
「……それでも弟が殺したという証拠はありません」
「冤罪で訴えるのも無理だろ、この町。ヒャッハーが法律だぞ。あの直結兵ども見たろ。私兵でも兵士だ。なのに、ねえちゃんの身体しかあいつら興味なかったんだぞ」
「……どうすれば」
「まぁ今は待つしかねえよ。今も牢に居るんだろ」
「は、はい。そう聞いています」
「なら待つしかねえな」
「そう、なりますよね……」
「ああ」
暗い顔になるカナナにヘンリーは小さく頷き。
「むこうもそう思ってんだろよぉ……」
そうボソッとシードルの瓶の中に言った。
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