第25酒:オッサン。捕まる。。

人気のない裏路地の道はやはり人気が無かった。

全裸のヘヴンリーはまだ気絶してその場にある。

ヘンリーは新しく補充したスキットルを軽く振って飲んだ。


「おーおー無事っていえば無事だが、さてどうするかコイツ」


羽冠はねかむ族の美少女。ヘヴンリー。

気絶して放置されていた。それも露わに裸体を晒したままだ。

そんなの大金が落ちているようなモノだ。

いつ連れ去られてもおかしくなかった。

ヘンリーなりに急いでは来たが、そうなったらそうなっただけのことだ。

別に助ける義理もないし、そもそも敵だ。

自業自得でそれから起こる事は当然の報いになる。

それに珍しいことじゃない。

人が消えるなんて珍しいことじゃない。


「乳臭いガキの裸なんか興味ねえが、このままっていうのもさすがになぁ」


ヘンリーはあの影野郎のコートを持ってくれば良かったと思いながら上着を脱ぐ。

いつもならチュニックを羽織っているのだが今日は忘れてしまった。

そしてシャツなど着ないので上半身が露わになる。

極限まで鍛え絞られた肉体。胸の中心に傷跡があった。背中にも同じ跡がある。

それをヘヴンリーに着せようと近付いたそのとき。


「ここでござるか! ヘンリーもとい怪物……め」


まずディンダ=キリステン。

絶世の美女で黄金級の冒険者。

ドラゴンスレイヤーであり、麗剣姫れいけんきと呼ばれている。


「ディンダ。早すぎる……ぞ」


次にゴルドブルー。

金と青のツートンカラーのツインテール少女ではなく28歳の女性。

大神官であり本名はキャサリン=モートンという。合法ロリ。


「魔物はここ……か」


最後にジークフォレスト第二衛兵隊御一行様。

この辺を警邏しており人員を増やしたばかり。

隊長はこの道23年のロッシ=ウドブ。赤い一本角の魔人族34歳。

先祖代々由緒正しき犬派である。しかし最近、妻が猫を飼った。

最初は猫なぞ如何な生き物かと思っていたが最近、猫も良いと感じている。


彼等がここに集まったのは奇妙な大絶叫が轟いたからだ。

さすがにそんなのが響いたら衛兵は一目散に駆けつける。

しかもこの第二隊は第六隊のように腐っていないのでそれはもう駆けつける。


ディンダは気配を感じた。強者の気配。ヘンリーである。斬り合い出来ると喜ぶ。

ここ最近、竜討祭の主賓なので依頼も行けずフラストレーションが溜まっていた。

ゴルドブルーは大神官として災いを感じた。ヘヴンリーの魔獣化だ。

聖職者として放っておけない。それと走り出すディンダを止めないといけない。


同時に大絶叫が響き渡る。もう行くしかない。

かくして彼等は集まるべくして集まった。集まってしまった。


そして見た。目撃してしまった。

上半身裸のくたびれたチンピラ小物顔オッサンが全裸で寝ている美少女に接近する。

アウトである。

誰がどう見ても一発アウトの事案である。

それはもちろんこの国でも同じだ。アウトはアウト。

最初に動いたのはジークフォレスト第二衛兵隊御一行様だった。


「確保おおぉぉっっっっ」


隊長ロッシの号令の元に衛兵たちが雪崩れ込んでヘンリーを捕らえる。

日頃から悪党を捕縛しているから手際がいい。

むろん現場と状況判断から事案なので問答無用で捕縛だ。

それを尻目にディンダとゴルドブルーはヘヴンリーの元へ駆け寄った。

すぐにディンダがヘヴンリーに上着をかける。

ゴルドブルーは彼女を診た。


「むう。こやつ」

「キャサリン。どうしたでござるか」

「全体的に危ういが、特にこの赤黒い腕。禍々しい魔力を感じるのう」

「禍々しいでござるか」

「おそらく闇の禁忌……じゃ」

「なんと」


背景でヘンリーがぐるぐると縄で巻かれて縛られていた。

かくしてオッサンは捕まった。

捕まるべくして捕まった。






牢名主。

それは牢屋の王である。

牢屋という限られた限定空間には数多の犯罪者が蠢く。

まるで泥沼の大戦末期のような無法地帯。

牢名主はそんな無法地帯に法をもたらす王だ。

絶対服従という唯一にして無二の法である。

牢名主に成れる者。

それはすなわち強大な力を持つ者だ。

正義。法。財産。

その全てを手に入れた者。それが牢名主である。


ジークフォレスト衛兵本部。地下。

街が賑わうと犯罪は増加する。なのでつい最近、牢を増築したばかりだ。

突貫工事で急ピッチに増築したので牢屋は少し妙な造りになっていた。

左右に牢があるのは旧来通りだが、一番奥に牢が四つほど並んでいる。

そして右端だけ一番大きかった。

その大きな牢にヘンリーは入れられていた。


「牢名主! 新入りですぜ」

「オラぁっ、オッサン。牢名主に挨拶しろや」

「ども。ヘンリーだ」


ヘンリーは煎餅布団を何重にも積み上げ座している囚人服の男に挨拶した。

彼こそが牢名主。大柄で髭モジャで眼帯をした男だ。

なお何故かヘンリーだけ囚人服じゃない。


「グッフフフフ。オレァは牢名主だ」

「名前ねえのかよ」

「てめえっ、牢名主様になんて口の利き方だぁ!」

「おれらが教えてやろうか。オッサンっ! ジョンジだ!」

「本当に教えてくれるのかよ」

「グッフフフ。フッ、いい度胸だな。だが、こいつらもてめえのよう」

「なあ酒はねえのか」

「てめえっ、牢名主様がまだ喋ってんだろうが!」

「またおれらが教えてやろうか。オッサンっ! あるぞ!」

「あるのか」

「グッフフフ。フッ、いい度胸だな。だが、こいつらもてめえのよ」


以下略。3分も掛からずに全員ぶちのめされた。


「うまいな。これ」


ヘンリーはぐびぐびっと飲む。ラム酒だ。


「へ、へい。密造酒でさぁ」


牢名主もとい顔半分がボコボコになったジョンジが愛想笑いで答える。


「密造……?」

「あっしは元海賊でして」

「海賊ぅ? ここは陸だぞ」

「海賊やめて盗賊になったんでさ。それでも海賊んときの密造酒ルートがありやして、実はここで商売してんですよ」

「牢屋で商売だぁ?」

「へ、へい。牢屋だと怪しまれませんから非合法に稼げますぜ。海賊船印で有名なキャプテンジョンジのラム酒はお貴族様から宮廷まで、上流階級の方々に人気の商品でして、あのロンリーウルフと並ぶとか並ばないとか」

「ああ、あのワインか」

「それと実はここだけの話ですがパトロンがおりやして」

「貴族に有名なら、そりゃそうだな」

「それと衛兵の何人かは俺等の部下でして」

「汚職すぎるだろ。まともに働け」


おまえが言うな全開のヘンリー。

なお牢屋管理は第六隊である。


「ろ、牢名主Ⅱ世っっ!!」

「Ⅱ世言うな。襲名制かよ」

「た、大変だっ! と、とんでもなく綺麗な女たちが!」

「あー……女たち?」


やっと迎えが来たかとヘンリーは思ったが首を傾げた。

とんでもなく綺麗。確かにディンダは外見だけは美麗で美しい。

だが複数形に疑問が生じる。ゴルドブルーは美女だが外見だけなら美少女だ。

綺麗な女たちに入るかは難しい。28歳だが。


「うおぉぉっ、すげえ。高級娼婦みてえ」

「この街の娼婦のナンバーワンより綺麗だ……」

「馬鹿が、帝都の娼婦みたことねえんか。それより―――ベッピンじゃねえか!?」

「ったくてめえら。貴族御用達娼婦見たことねえのか? それよりは……ウソだろ。それよりマブイじゃねえかっ!?」

「皇帝の後宮のロイヤル娼婦じゃねえのか。あんなに輝いているのは」

「エルフもいるぞ! ロイヤル娼婦だ間違いねえ!」


騒然となる囚人ども。大騒ぎである。


「どいつもこいつも娼婦でしか例えらんねえのかよ。あ? エルフ?」


ヘンリーは嫌な予感がした。

すぐにこの場から逃げ出さないといけないと感じる。


「やかましいぞてめえらっ!」

「ですが先代。あんな星みてえなスケ娼婦は今まで見たことも」

「失礼致しますわ」


しゃなりっと鈴が鳴るような声がした。

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