第21酒:実録! ホークの集いは目撃したっ! 後編
すぐログが肉団子を口にほうばったまま小首を傾げた。
「ん。ほほれはほういう」
「行儀悪いわよ。だから食べ終わってから話しなさい」
アーミスが叱ると、途端にログは肉だんごを喉に詰まらせる。
「んぐんごんがおおぉ!?」
「あんたねえ。ほら、水をゆっくりと飲みなさい。ゆっくりよ」
アーミスが呆れた感じでログに水を飲ませた。
その様子にクルフとルークは眼を輝かせる。
「……母上」
「お母さんだ」
「……ふぅー死ぬかと思った。ありがとう。おふくろ」
「やめて!!!」
全力で否定するアーミス。
クルフは瞳をうるうる。
「……認知して母上」
「クルフ。そういう生々しい冗談やめなさい。それでルーク何が分かったの?」
「教会の聖女は処女かつ20歳までなんだよ。ゴルドブルーさん。どう見ても僕達より年下なのに大神官って呼ばれていて、聖女って呼ばれないのどうしてなんだろうなってずっと思ていたんだ。28なら当然だね」
ニコニコッと全く悪気なく楽しそうなルーク。
引っ掛かっていたモヤモヤが消えたよと無垢な笑みを浮かべる。
悪気は全く無い。
「そうだな」
「そうね」
「……うん」
三人は頷いた。
それから話はドラゴン討伐や最近のことに移る。
話題と言えば竜討祭というところで。
「えっうっうわばお!?」
突然ログが奇声をあげた。
「どうした。ログ」
「なによ。って、え」
アーミスも言葉が詰まる。
「……」
「どうしたんだ? ふたりとも?」
「な、ななな、ななっ、あ、ああ、相席したあっ?」
ログが信じられないと声を高くする。
アーミスも愕然として、震える声で言う。
「う、うう、ウソでしょ。エルフの女と相席してる……」
「ヘンリーさんが?」
「ど、どど、どういうことだっ!? あんなエルフの美女とオッサンが!?」
「……」
「落ち着いてふたりとも。二人席で店内は混んでいるからそういうこともあるよ」
「ねえよっ!」
「ないわよっ!」
異口同音にふたりは言う。更に畳みかける。
「あんな酒浸り万年ろくでなしオッサンが!」
「チンピラ盗賊面の酒カスがエルフ美女と相席していいわけないでしょっ!」
「ええぇ……」
「……」
「なんでだよっ! なんであのオッサンがモテるんだよっ? ディンダさんにゴルドブルーさんにカナナさんだぞぉっっ!」
「その面子はモテているのかな?」
「ともかく! おかしいわよっ、あんなのに女が寄ってくるわけないわ!」
「……ぐっぐぐぐっっっ、た、楽しそうに話してやがる!」
「許せないわ。この世の法則が乱れているわ。許せないわ」
「ええぇ……別にいいじゃないか」
「ダメよ!」
「ダメだ!」
「ええぇぇ……」
「……ルーク」
「ん。なにかな。クルフ」
「……この宿。2階に部屋がある」
「へえー、そうなんだ」
「……泊まれる」
「宿になっているのかな?」
首を傾げると、ログとアーミスが呆れた表情をした。
「ルーク。あんた。さすがにそれはないわよ」
「クルフならともかく、おまえ。それはさすがにな」
「ど、どうしたんだよ。ふたりとも」
「あんたねえ。あの部屋はお酒を飲んだ男女が」
「男女が?」
「マジかこいつっ! あんなぁ。俺等もう子供じゃねえぞ」
「そう言われても」
「……ルーク」
「クルフ? えっ、なに?」
クルフはルークの耳元でぼそぼそっと話す。
たちまち顔を真っ赤にするルーク。
「そ、そういう部屋だったのか……えっ、じゃあ!?」
「必ずしもそうなるとは限らないわ」
「そうなりてえけどなぁ俺」
「ログ。そういうのはひとりのときにしなさい」
「わぁったよ。おふくろ」
「あんたねえ!」
「クルフ。知っていたんだな」
「……うん。わたし。大人の女」
「チンチクルフリンが何を言ってるんだか」
アーミスは鼻で笑う。
クルフはボソッと言った。
「……ペチャパイアーミス」
「は? あんたよりはあ」
「丸太アーミス。実際かなり太ってる」
「てめえぇ……」
「や、やめなってふたりとも!」
「……みんな。丸太アーミスは持ったか? 無理。重くて持てない」
「コロス」
「ちょっ、やめなって。ログも止めて!」
「でもよ。やっぱ、やっぱ男なら一度は―――ん? お、おい。おっさんとエルフの美女が一緒に立ち上がって、んん? 二階へ……へ? は? ハアアアアァッ!?」
ログは思わず叫んで立ち上がった。
いきなりで吃驚するアーミスとクルフとルーク。
「きゃっ、なによっ驚いたじゃない!」
「おっさんが……ヘンリーのおっさんが…………っ!?」
「あっ、そういえばいないわねっどこへ?」
「……エルフもいない」
「ふたりとも帰ったんじゃ」
「二階へ行った」
「え」
「二階へ行った」
「……」
「二階へ行った」
「えっと、二階って、えっ、ヘンリーさんが……」
「二階へ行った」
「どうなっ」
「なんでだああああああぁぁっっっ!?」
ログの魂の叫びは店内に轟く。
即座にうるせえぞっガキどもと先輩冒険者がジョッキを投げた。
ところ変わって旧国境沿い砦。
砦の地下。
交代の時間になったので牢屋番が当番の兵士に鍵を渡す。
「ここ最近、忙しいね」
「なんだか急に色々と出来事が回っている気がするぜ」
「そう言われると確かに。じゃあ、ゆっくり休んで」
「そうする。おつかれさん」
欠伸をして交代した兵士は出て行った。
鍵を受け取った兵士はため息をつく。
「まったくようやっとだよもう」
牢屋への通行口の鍵を開けて入る。
ここの牢はたったひとりにしか使っていないので他は無人だ。
一番奥だけ使っている。
「アレキサンドル。おーい。生きてる?」
「………誰だ……」
ボロボロの衣服に枷と首輪をして、椅子に座った金髪の青年は反応する。
死んだ瞳を僅かに動かし、その澱んだ瞳に兵士を映す。
「嫌だな。忘れちゃった? ぼくだよ」
「ヘヴンリー!?」
「そうそう」
ガチャと鍵をあける。
「なぜ……直属の『ワイルドハンド』のおまえが!?」
「そりゃあ、ヨルカン様がここにやってくるからさ」
兵士の姿が瞬く間に変わった。
白髪黒目の少年だ。白いジャケットを纏っている。
「やってくる……竜討祭か」
「ご名答。だから小さくても憂いは消したいんだよ。歩く地は綺麗にしないと、ほらヨルカン様は用心深く綺麗好きだからさ。さすが聖職者の鑑だよね」
「俺を、殺すのか……」
「君は実に惜しい人材であった。こんなところで躓くとは思わなかった。だってさ」
そうかとアレキサンドルは眼を閉じた。覚悟を決めた。
「我が御霊。聖綬の母ヴァヴァリアーナの元へ」
「じゃあね」
ヘヴンリーはなにもしない。
だがアレキサンドルは死んだ。
まるで眠るように椅子に座ったまま死んでいる。
「はい終わり。えーと次はヘンリーとかいうゴミの始末か。なんでこんな掃除も出来ないのが多いんだろう。まったく」
ヘヴンリーは愚痴ると兵士に戻って去って行った。
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