第20酒:実録! ホークの集いは目撃したっ! 前編
最近話題の若い冒険者パーティーといえば『ホークの集い』だ。
名前の由来は彼等の村ホークからで、幼少からよく集まっていたメンバーだからだ。
剣士でリーダーの天然少年ルーク。皮肉屋で魔法使いの少女アーミス。
槍使いの生意気少年ログ。狩人で弓使いの不思議系少女クルフ。
それと今は用事で離れているが、聖女と呼ばれる神官の少女がいる。
彼等はそんなに早くはないが青銅級の冒険者となった。
このまま順調にいけばおそらく純銀級までいけるだろう。
そしてそれで止まっていたはずだった。
だがひとりの酒浸りのろくでなしオッサンにウザ絡みされてから全てが変わった。
場末の酒場。
狭い店内。ちょうど空いたテーブル席に彼等は座った。
それぞれ食べたい料理と飲み物を注文する。
「はぁー疲れた。やっと街に戻って来れたわ」
「まったくだ。腹も減った。肉が食いたい」
「ようやく一息つけたね」
「……」
クルフは黙っている。最初に飲み物がきた。
エールの大ジョッキを頼んだのがアーミスとログ。
オレンジジュースがルーク。テキーラのストレートがクルフだ。
「あんた。凄いの飲むわね」
「……」
クルフのテキーラボトルを見てアーミスが言った。
「なんだ。ルーク。飲まねえの」
「お酒って気分じゃなくてさ」
「まっ、いいわ。乾杯しましょう」
「おう」
「うん」
「……」
アーミスの号令で全員がそれぞれ持つ。
「「「「乾杯」」」」
高くあげて打ち付ける。
アーミスとログはごくごくごくっと喉を鳴らして飲んだ。
ルークは飲まずに置いて、クルフは一口だけ飲む。
そしてお待たせしましたと料理がやってきた。
テーブルに所狭しと料理が並ぶ。その殆どが肉料理だ。
鳥の唐揚げ。肉だんご。ビーフシチュー。臓物煮込み。骨付き焼き肉。
分厚いハムステーキ。リブドラゴンステーキ。季節の野菜スープ。
トマトのチーズ焼き。雑肉まとめ焼き。白パン。黒パン。灰色パン。
バターの塊。赤米。塩パスタ。胡椒パスタ。
アーミスは苦言する。
「ちょっと食べ切れるの?」
「こんなの余裕」
「はぁーホッとする。この野菜スープ」
「……むしゃむしゃ」
「あっクルフ! てめっ、それ俺が狙っていた肉!」
「……狙った獲物はすぐに仕留める。ハンターの常識」
「上等じゃねえか。勝負だっ!」
「ログ。みみっちいわよ。まだこんなにあるじゃない」
「けどよぉ」
「それとルークはちゃんと肉を食べなさい。野菜スープばかり飲んで」
「今はお肉はちょっと」
「今日のお昼もそう言って食べなかったわね。ちゃんとお肉も食べなさい」
「えっちょっと、お皿に勝手に入れないでよ」
「これくらい食べなさい。まったく世話が焼けるんだから」
「おまえはルークのおふくろかよ」
「……違う。皆のお母さん。母上」
「マジかよ。おふくろ」
「やめて! あんたらみたいな子供まっぴらごめんだわ!」
「……どんまい。ログ」
「いやおまえもだろ。クルフ」
「ふたりともよっ!」
あはははははっと笑い声が響く。
とても楽しそうだ。そんな感じで飲んで食べていた。
ふと思い出してアーミスが言う。
「そうだ。言い忘れていたけど、レリア。戻って来れるらしいわ」
「マジか」
「……」
「ほら例の竜討祭にアサカンとかいう教区司教と一緒に来るみたい」
「きょうく、なんだ?」
「教会のこの辺境で一番偉いひとだよ」
「へえー」
返事から興味無いログ。
「……アーミス。レリアには伝えた?」
「まだよ」
「ふたりとも何の話?」
「……ホークの集いの今の状態……レリア知らない」
「それか。どう話すか」
ログもテンションが下がる。
アーミスはエールを飲んでから愚痴の様に言った。
「あんたが天才過ぎるせいで青銅級じゃない実力なのにわたしたち青銅級になってしまったの。だから今は青銅級保留中です。って、そんなの書けるわけないでしょ」
「そうだよね。でも会ったらしっかり伝えないといけない。それは僕がやるよ。リーダーとしてせめての責務だ」
「違うだろ。ルーク。これは俺達の責任だ」
「そうよ。皆で言いましょう」
「……仲間だからきっとわかってくれる」
「ありがとう。みんな」
ルークはちょっと泣きそうになった。
そうして絆が深まったホークの集い。
優しく甘く温かい雰囲気。
店に客が入ってきた。
「いらっしゃいませー」
「あ? 席……ねえなぁ、チッ」
「ね、ねえあれ見て!?」
最初に気付いたのはアーミスだった。
全員が彼を見る。
「ヘンリーのおっさんじゃん」
「……酒カスオッサン」
「ヘンリーさんだ」
見られていると知らずヘンリーは舌打ちして空いている席に座った。
二人席だ。
「相変わらず、どっかのチンピラか盗賊の下っ端みたいよね」
「あれでディンダさんより強いんだぜ。あのオッサン」
「酒浸りの酒カスなのに」
「……働かないって宣言しているの……凄い」
「凄くないわ。掃き溜めのクズよ」
「……」
「アーミス。相変わらずヘンリーさん。嫌いなんだ」
「大嫌いよ。でも感謝だけはしているわ。おかげで生きているから。でも嫌い。生理的に無理」
「そこまで言うのかよ。でもよ。そうだよなぁ。こうしてディンダさんに師事できるのもオッサンのおかげだよな」
「おかげだけど、あたし。大嫌いだから」
「……」
「あははっ、そういうのは仕方ないよ」
「しかしよ。あのオッサンなんなんだろうな」
ログはハムステーキを咀嚼しながら言う。
全員がちょっとだけ考え、アーミスは嫌そうに言う。
「知らないわよ。あんなの」
「そうなんだよ。あれだけ強いのに誰も知らない。知らなかった」
「ルークの言う通り。思えば変な話だ。あのオッサン。年齢は40ぐらいか」
「……その手前」
「まだ30代なんだ」
「どっちにしろオッサンよ。汚いオッサン」
アーミスは愚痴ってエールを飲む。ペースがいつもより早い。
ルークは続ける。
「ディンダさんから聞いた話だと、ヘンリーさんは村出身らしい」
「ふーん。まっそうでしょ。あれが名門貴族出とか言われたら卒倒してたわ」
「名のある傭兵団生まれじゃなかったんだな」
「……戦場で生まれた説……」
「墓場から生まれた説を推すわ」
「アンデッドかよ。いやでも人間離れしてるか」
「ディンダさんも人間離れしているからどうなんだろう」
「……どっちも人外」
「それより村出身って年齢から間違いなく徴兵されているわね」
「徴兵?」
ログはきょとんとしている。
すかさずクルフが教えてくれる。
「……泥沼の大戦時。村々から徴兵していた」
「聞いたことあるな」
「ログ。隣の家の兄ちゃんが徴兵されたの覚えてない?」
「ジェームズのことね」
「……いま美人の嫁さんがいるジェームズ」
「ホントに美人なんだよな! あと子供が5人とか羨まし過ぎるぜ。そっか。ジェームズがそうだったか」
納得したがあまりピンっときていない。
彼等の年齢からすれば10年前に終わった泥沼の大戦は過去のモノだった。
なにせ終戦前に生まれてはいるが、それでも当時6~4歳である。
千年間も続いた泥沼の大戦と呼ばれる大戦争。
その戦後処理には100年掛かるといわれている。
今はその戦後処理の時代だ。
「それでもあれだけ強いんだぜ。名前が知られてないっていうのは変だよな」
「ディンダさんやゴルドブルーさんは大戦時から知られていたわね」
「えっ、ディンダさんはともかくゴルドブルーさんいくつだよ!?」
「28って聞いたわ。ディンダさんが26ね」
「マジか。見た目は俺の妹と同じぐらいだぞ」
「言われるとレダちゃんぐらいにしか見えないわよね」
ログの妹レダ。年齢9歳。ちなみにログは大家族。
「……コモと同じ」
「6歳でも頷けてしまうよな。もぐもぐ」
「あんた。それ本人の前で言うんじゃないわよ。あと食べながら話さない」
「んぐんぐ」
「―――ああ、だから聖女って呼ばれていないんだ」
唐突にルークが納得した。
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