第5酒:面白ぇ女。

懊悩する受付嬢のカナナに助け船を出したのは女性だった。

見る者をハッとさせるほど綺麗な女性。

長い銀の髪をしていて、前髪を髪飾りでまとめている。

切れ長の眉で深い翡翠色の瞳は精巧に整った美麗な顔立ちにピッタリだ。

ただ見つめるだけで異性問わず相手の心を射抜きそうでもある。

実際、こうかはばつぐんだ。


青い外套にドレスみたいな不思議な形状の白い鎧を装着していた。

中央に樹の紋章が彫られている。

黒いバトルベルトと呼ばれる男性用の戦闘帯を斜めに巻き、両腰に同じ長さの黄柄と緑柄の剣を佩いていた。スカートは真っ白だ。


彼女は冒険者である。

それも美麗さとは別にして強者特有のタダモノではない気配をしている。


「ディンダさまっ!? 何故あなた様がここに!?」

「話は聞かせてもらったで候。良ければ某が彼等の様子を見ようでござる」

「えっ、ほ、本当ですかっ!」

「うむ。ただし命の危険と感じたときは問答無用で介入するでござるよ」

「はい。おねがいします!」


カナナは喜んだ。


「そして介入した時点でその依頼は失敗とみなす。良いでござるか」


ディンダは翡翠色の瞳を深くして問う。

瞳の奥に容赦のない鋭さが秘められる。

それと新しいボトルに口を付けるヘンリーが映った。


「は、はい。そのときはよろしくおねがいします」


カナナは覚悟して頭を下げた。

もしそうなれば彼等の青銅級剥奪は免れない。

聖女との関係も崩れる可能性もある。

それでも命が助かるだけマシだろう。


「ヘンリー殿もそれでよろしいか」

「ん? ああ、別に好きにしろ」


自分にはもう関係ないとヘンリー。

ディンダは笑った。


「では行って来るでござる」

「は、はい。本当によろしくおねがいします」


カナナは深く頭を下げた。

ヘンリーは面白ぇ女もいるもんだなあと暢気に思った。

カナナはため息と共につぶやく。


「まさか。あの方がまだこの街に居ただなんて」

「なんだぁ、ねえちゃん。あの面白ぇ女。知り合いか」

「面白いとは失礼です。ヘンリーさん。あの方をご存じないのですか」

「うーん。高級娼婦にしては物々しいと思ったが」

「ヘンリーさんっ! あの方は黄金級冒険者です!!」

「そいつは金回りがいいってことで」

「ヘンリーさん。冒険者の階級は知ってますよね」

「知らん。興味もない」

「じゃあ何をしにって、お酒ですね。本当にあなたってろくでなしです」


心底から軽蔑するカナナ。

ヘンリーは冒険者じゃないので容赦ない。


「そいつはどうも」


言われ慣れていてなんとも思わないヘンリー。

それはそれでどうかと思う。カナナは侮蔑しながらも話した。


「仕方ないので教えてあげます。冒険者には原石級。青銅級。鋼鉄級。純銀級。黄金級。至宝級。があります」

「へえー、それでいくとさっきの面白ぇ女は最上の一歩手前か」

「そうです。ディンダ様はとても凄い人なんです。決して面白ぇ女ではありません」

「そうか? けっこう面白ぇ女だぞあれは」

「ヘンリーさん! いい加減に」

「なにせ、ここ数日。ふたりともずっと気配を消して俺を見張っていたからなぁ」

「は? 何を言っているんですか。あなたみたいなろくでなしのクズに興味を惹かれるわけないです」

「まぁ俺もそう思うんだが、ずっと見ていたからなぁ」

「それに居るなら気付い…………ふたり?」


カナナはそういえばいきなり背後からディンダは現れたと気付いて振り返る。

二人のテーブル席に本を読んでいる金と青のツートンでツインテールの少女がいた。


「あ、あなた様は!?」

「気付かれてしまったようじゃな」


クックッククククッッと不気味に笑って少女は本を閉じる。

見た感じ10代前半ぐらいだろう。


金と青のツートンカラーのツインテール。

金と青のオッドアイをした外見相応の可愛らしい美少女だ。

黒いケープを纏い白シャツに黒スカートとラフな格好だ。

腰の白いベルトには赤いポーチを付けている。

気になるところは両腕に金と青の腕輪を付けているところか。


派手な少女だが何故かカナナは気付かなかった。

ケープの留め金に黄金のエンブレムがある。

それこそ黄金級の冒険者の証だ。


「ゴルドブルー様!?」

「お、おお、見たまんまって感じの名前だな」


己の黒い歴史に刻まれそうだとヘンリーは思った。

彼にもそういうときがあった。


「たわけ。ゴルドブルーは魂の名じゃ。本名は別にある」


なお本名はキャサリンである。

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