第96話

「よ~し、先ずは服屋からだな?」


と笑いかけてくる謙吾。



「服屋?」


と首を傾げた私。



「おう。CLUBbutterflyに行くからな。少しだけお洒落しようぜ」


と私の腕を掴んで歩き出した謙吾。


いやいや、ワザワザ服を買ってまで行かなくても。




ズンズン歩く謙吾。


擦れ違う人達は謙吾を驚いた顔で見る。


謙吾も顔は良いもんね?


帝王の側近だし、それなりに人気もありそうだ。



っうか、私まで見られてるってばぁ。


見定めるようにジロジロ見られるのは気分の良いもんじゃない。


ヒソヒソ囁かれるのもウザい。





「謙吾、ちょっと離してくれない?悪目立ちし過ぎる」


捕まれてる手を振り払う。



「あ、おう。悪い悪い」


ニシシと笑った謙吾は悪びれる様子はない。



はぁ...一緒に来たのは間違いだったかも。


裏路地でこんなに見られてるのに、大通りに出たらどうなるのよ。



頭を痛めながら、スタスタと前を歩く謙吾を追い掛けた。






案の定、大通りに出たら視線視線....。

 

あちこちから向けられる色んな視線に晒された。


あぁ、こりゃ客寄せパンダだよ。



謙吾のファンかなにか知らないけど、睨んでくるお姉さん達も居て、非常に疲れる。



無理矢理連れ出されたのに、この仕打ちなんなのよ。


段々と腹立ってくるし。



謙吾は何食わぬ顔で歩いてるから余計にムカつく。




「どこまで行くのよ」


と言ったら、


「すぐそこ。ほら、あの店」


と指差す先は、この間シルバーアッシュの男を目撃した店だ。



「あんな高級店に用ないわよ」


無駄遣いもしたくないし。


ゆっくりとなる足取り。



「良いから良いから」


笑顔で手招きするこの男を放置して帰ってやろうか?



「...めんどくさ」


ポツリと漏らす。



「ほら、行くぞ」


私の所まで戻ってくると謙吾は目的の店まで駆け出した。

逃げようと思ったのが、どうやらバレたらしい。



「「「キャー!」」」


と上がる黄色い悲鳴に、余計な敵が増えたな?と溜め息をついた。


一人で道を歩く時は気を付けようと心に決めた。


女の逆恨みほど怖いのもはないと、泉でイヤってほど経験してるからね。

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