第95話
「暁ちゃんは、ここと家しか往復しないし。またには遊ぶのも良いわよ。まだ19歳なんだから青春しなきゃ」
と恵美ちゃんは笑う。
確かに、ほとんど出歩かないし、ここに来てからは遊びに行った事も無いけど。
それは必要がないからで...。
ママを呼び寄せるまでは、遊んでる場合じゃないし。
「私は...そんなこと...」
してる場合じゃないしと言おうとしたら、恵美ちゃんが私の肩をポンと叩いた。
「何かがあってここに来て、その為に頑張ってるのは分かるけど。こんなに肩を張ったままじゃ途中で倒れるわよ。だから、たまには息抜きが必要。頑張ってばかりじゃくたびれちゃうわ」
あぁ、恵美ちゃんは何も言わなくても分かってくれてるんだね。
彼女の優しい気持ちに胸が温かくなる。
恵美ちゃんになら聞いてもらいたい。
大袈裟な闇なんて物を抱えてるつもりはないけれど、この中に隠したままの思いをこの人になら知ってもらいたいと思うんだ。
「恵美ちゃん...」
「ほら、もう九時過ぎたわ。遊んでらっしゃいな」
と微笑んだ恵美ちゃんに素直に頷いた。
「おっ、恵美ちゃんナイス援護射撃」
と手を叩いた謙吾。
「諸星さん、暁ちゃんをしっかりと守ってくださいよ。万が一彼女が傷付いたり悲しい思いをしたら....どうなるか分かってますよね?」
そう言って謙吾に鋭い瞳を向けた恵美ちゃんは黒いなにかを背負って見えた。
「わ、分かってるよ。安全に無事に遊びます。帰りもキチンと送り届けます」
と頷いた謙吾。
無事に遊ぶってなんなのよ?
「なら良いわ。暁ちゃんを宜しくね?」
いつもの優しい顔に戻った恵美ちゃんをスタッフの皆は苦笑いで見ていた。
恵美ちゃんて、豹変すると怖いタイプなのかも。
私はそんな恵美ちゃん達を横目にスタッフルームに入る。
タイムカードを押して着替えを済ませる。
わざわざ、着替えるのも面倒だからこれで良いか?
いつもの定番な格好をしてる自分を見下ろす。
ハーフパンツにキャミ、その上にパーカー。
相手が謙吾だし...これでいいや。
意味の分からない納得をしてスタッフルームを出た。
「おっ、来た来た。暁ちゃん行こうぜ」
私を見つけた謙吾が笑顔で手招きする。
「お疲れさまです」
店の皆にそう言ってから謙吾の元へと向かう。
「「「お疲れぇ」」」
皆が手を振ってくれる中、私は健吾に連れられて外へと出たのだった。
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