第97話

高級店の店内、高そうな物が沢山並んでて、スタッフさえも高級なスーツに身を包んでた。



謙吾に無理矢理店の中に連れてこられた私は、完全に場違いだ。



「いらっしゃいませ、諸星様」


近付いてくる女性スタッフの目はキラキラしてて、謙吾狙いなのは一目瞭然だ。



「ああ。彼女に似合う物を見繕ってくれる?そんなに堅苦しい物じゃなくて良いから」


謙吾はそう言ってスタッフに微笑んだ。


この男は自分のウイークポイントをよく知ってる。


可愛さを全面に出せば、女の子達のキュンを引き出せることも。



「か、かしこまりました」


頬を赤くしたスタッフは頭を下げて陳列棚に向かう。




「暁ちゃん、欲しいのがあれば遠慮せずに言って良いぞ。」


これなんかどう?と展示されてるドレスを指差した。



「はぁ?」


何を言ってんのよ。



「俺からのプレゼントだし、お金の心配は要らねえぞ?」


「いやいや、買って貰う意味が分かんない」


首を左右に振る。



「無理矢理連れ出したおわび。だから遠慮すんなよ」


「悪いけど、そんなことぐらいで人に物をねだるほど腐ってないわ」


貴方達の周りに居る女の子達と一緒にされても困るのよ。


言葉に怒りが出ちゃうのは仕方ないよね?



「...あ、ごめんごめん。そんなつもりはねぇ」


慌てて顔の前で手を振った謙吾は苦笑いを浮かべて後頭部を掻いた。



「今から行くことはちょっとラフじゃ無理だから我慢して」


と付け足したので、



「だったら行かなきゃ良いじゃん、そんなとこ」


と返してやる。




「まぁまぁ、そう言わずにさぁ」


困った顔をしても知りません。




「諸星様、こちらはどうでしょうか?」


青いショート丈のAラインのワンピースを両手で大切そうに持ってきたスタッフ。


チャンスとばかりに謙吾は反応する。



「ほら、これ着てみ。ここに入ってね」


謙吾はワンピースを受け取ると私の手にそれを押し付けて、側にあったフィッティングルームへと押し込んだ。



「はぁ?えぇ!」


と言う私の抗議は、



「じゃ、着替えたら出てきてね」


とドアを閉められて遮られた。




なんなのよ...この強引さ。



「勘弁してよ」


溜め息をついた私は、手に持ったワンピースを見下ろした。


流石、高級店のスタッフね?


サイズも言ってないのにちゃんと9号選んできてるわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る