第88話
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「...チッ...」
不機嫌な舌打ちが聞こえて振り返れば、紅葉が苦虫を噛んだような顔で去っていく彼女の背中を見ていた。
ゾクッとしたのは、その瞳が野生の捕食者のそれと同じでしたから。
あ~ぁ、本気になりそうですねぇ。
紅葉が興味を示す暁さんを逃すなんて出来やしませんね。
彼女の人を食うような態度と素っ気ないそれは、俺達の周りの女達は持ち合わせていないもの。
だからこそ、珍しくて。
だからこそ、興味を惹かれる。
俺達の容姿にも地位にも全く興味を示さず、尻尾を振ることも媚を売る事もしない暁さん。
魅力を感じずには居られませんよね?
それに、彼女は尽くうちへの配達も断ってくれてますし。
初めて会ったあの日から、彼女を指名して配達を頼んでるにも関わらず一度も訪れた事はない。
配達してくるスタッフに彼女が来ない訳を聞いても、のらりくらりと交わされる。
暁さんは、あのカフェのスタッフ達からもかなり可愛がられている事は間違いないですねぇ。
「ねぇねぇ、あの子はなぁに?」
紅葉が腰を抱いてる婚約者の女が甘えた声で紅葉を見上げた。
「何でもねぇ」
チラリと彼女を見ただけで、そのまま歩き出した紅葉。
この婚約者の女を紅葉が愛しているのか?と言えば否だ。
親同士の婚約者で紅葉の幼馴染み。
彼女が紅葉を気に入ってたことは昔から知っていました。
まさか、親を使って婚約者に成り上がるとは思いませんでしたが...。
紅葉が彼女を大切に思ってるのは間違いないと思いますが、そこに恋愛感情はないでしょう。
だけど、頼まれればキスをし、体を求められれば抱く。
紅葉は擦り寄ってくる彼女を邪険になんて扱わない。
幼い頃からの付き合いがそうさせているのか、紅葉の優しさなのか分からないが。
だからと言って、紅葉は婚約者以外の女を抱くことを止めない。
紅葉にとって女を抱くと言う行為がただの性欲処理だからだろうか?
だけど俺は、紅葉が本気で人を愛した事がないからだと思っているんです。
だから、婚約者を拒まず、遊びの女を絶やさない。
求められるままに求められる事をする。
なんの罪悪感も戸惑いも抱かずに。
紅葉はきっと感情が欠落している。
それは育った環境が影響しているのだと思いますが。
それに漬け込んで紅葉を縛ろうとするこの彼女が俺はあまり好きではありません。
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