第79話

「さぁ、どうでしょうか?おっと長居をし過ぎましたね。本日はこの辺で失礼します」


白々しく腕時計を見た美智瑠さんは、テーブルの上の伝票をスマートに手に取ると立ち上がった。



どうやら帰ってくれるらしい。



「ごちそうさまで~す」


彼を見上げてそう言うと、フォークに刺していたパンケーキを口に放り込む。



「いえ。またお会いしましょう」


綺麗に微笑んで立ち去っていった。


または会いたくないです。



あの人、スッゴく疲れるから。



溜め息をつきながらお洒落スーツを着た彼の背中を見送った。



結局の所なんだったんだ?


意味の分かんない訪問者だったのは間違いないなぁ。



カランカラ~ン、ドアベルが音を鳴らして彼が店内から出て行ったことを知らせてくれる。



興味の無くなった私は、テーブルの上のパンケーキに意識を向けた。






「おいおい、暁ちゃん大丈夫だったか?」


駆け寄ってきたのは、たいちゃん。


その顔はなぜか心配そうで。



「あ、問題ないよ」


と顔を上げれば、


「だったらいいけど。大木さん何しに来たんだ?」


とさらに追求された。



「なんだろうね?私もよく分からないわ」


これは本当だし。


あの人は結局の所、何がしたかったのか?



「随分、気に入られてたみたいだから大丈夫だと思うけど。あの人には気を付けろよ?」


と言われる。



「気に入られるとか意味が分かんないけどね?」


迷惑な、と付け足した。



「いやいや、あの人は凄い人なんだからな。睨まれたらこの街では生きてない」


と言われる。



何が凄いのか?首を傾げた。



「よく分かんない」


この街の事は詳しく知らないけど、生きてけないのは困るなぁ。



「ま、さかと思うけど、暁ちゃんてあの人達を知らないのか?」


とかなり焦った顔で見られた。



「あの人達ってなに?美智瑠さん以外に誰が居るの?」


あの変態野郎か?



モグモグと口を動かしながら、たいちゃんを見る。



「えっ?美智瑠さんとか呼んでんの?」


えっ?そこ先に突っ込むの?



「あ、まぁ。あの人がそう呼べって」


嫌だとか言ったら面倒臭くなりそうだし、言う通りにしただけだし。


そんなの驚かれても。



「はぁ...なんか、色々と凄いよ」


そんなに凄いことなのかね?



「ああ、そう」


カップを持ち上げてそれを口に運ぶ。



ん、温かくて美味しい。

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