第75話

ふぅ...と息を吐いて顔を上げる。



「こっちだよ」


と私の客だと言う人の座る席へと案内してくれるたいちゃん。



そこに座る人物が立ち上がって振り返る。



「ゲッ...」


安堵したと同時に出たのはこれだった。


しかも顰めっ面までしてしまった。



「...あ、ダメだって。そんな態度しちゃ」


と焦るのはたいちゃんだけで、私はもう落ち着き払っていた。


この人なら問題ない。


ってか、エロ男の所に居た奴じゃないか。


このインテリ眼鏡。




「いえ、構いませんよ。先程は家の者が失礼なことをしてしまい申し訳ありませんでした」


インテリ眼鏡は似非笑顔で微笑むとこちらに歩いてきて、丁寧に頭を下げた。



「.....」


あれは失礼なことを以前だろ?


あの露出狂のなんなんだ、この人。



「不快な思いをさせたのは謝ります」


「...不快とか以前に、あれはダメでしょ?」


「..アハハ返す言葉も無いですが。少しお話良いですか?あまりに大っぴらに話せないので」


と私の耳に口を寄せて語尾を小さくした。



「...あ、いや、私は今バイト中なんで」


勝手なこと出来ませんよ。



「あ...そうですね。では...どうしましょうか」


困った振りして顎に手を当てると、わざとたいちゃんを見た。


うわぁ、こいつ計算高いわ。




「えっと...あ!暁ちゃん、もう終わりじゃない?」


店内の掛け時計に目を向けてそう言ったたいちゃん。



チッ...余計なことを...。


確かに20時を過ぎていて、私のバイトは終わりを告げていた。




「颯斗、暁ちゃんもう上がりで良いか?」


んもう、新ちゃんまで余計なことを。



「おう、良いぞ」


厨房から聞こえた颯斗さんの声にガクッと肩を落とした。



皆、余計な気遣いし過ぎだ。



私はどうやら目の前で微笑むインテリ眼鏡と話をしなきゃならないらしい。



「タイムカード押しといてやる」


颯斗さんの押しの一言に、覚悟を決めた。



「じゃ、お先に上がりま~す」


言うしか無いじゃん。



「急かしたみたいですみませんね?」


全然悪びれてないよね?


このインテリ眼鏡、ムカつく。

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