第71話

「う~ん、んじゃあま。帰るか」


と背伸びする謙吾に、



「そうですね。帰りましょうか」


とデスクを片付けながら言う。



紅葉から受け取った食器はドアの側の床に置いてある。


あれを持っていけると思うとワクワクする。


だけど、それを謙吾には知られないようにしなければ。



彼がついてくると話がややこしくなりそうですからね。




「先に出てください。戸締まりをしたら俺も帰ります」


先に片付け終わってる謙吾を見る。



「おっ。んじゃお先に」


立ち上がった謙吾は鞄を肩に引っ掻けてドアへと向かっていく。



「お疲れさまです」


「おぉ~お疲れぇ」


ひらりと手を振ってドアを押し上げた謙吾。


俺はそれを見届けてから、部屋の中の戸締まりを確認する。



25階建ての最上階じゃ、泥棒なんて窓から入っては来ないけれど、開けっぱなしだと雨や虫が入り込んでしまいますからね。



幾つかの有る部屋の中もドアを開けて確認した。



カツカツと俺の靴の音だけが床に響く。



デスクに戻ってくるとPCの電源を落として、この部屋のキーを手にした。


鞄の中にスマホをしまい、もう一度部屋を見渡してから部屋を出た。



施錠したことを確認して、エレベーターに向かう。


一階に止まったままのそれをボタンを押して呼び寄せる。




到着したエレベーター乗って一階を目指した。



ビルの入り口で警備の者達と二、三話して黒いビルを後にした。



もちろん、手に持ってるビニール袋にはカフェの食器。



これは絶対に忘れません。



数軒ほど先のカフェを目指すのに、すっかり生気を取り戻した繁華街の喧騒に包まれた。



ビルの中に居ると外部の音は聞こえないので、此ほど賑やかになっているとは思わなかった。



本通りの一本奥の道とは言え、こちらを見てくる輩も少なくはない。



相変わらず面倒臭い視線だ。


明らかに媚を売ろうとするのか見え見えで気味悪いのです。



本当、夜の街にはそんなのしか出没しないのでしょうかね?




そんなことを考えているとあっという間に到着したカフェ。


迷わずドアを押し開けた。



カランカラ~ンと耳障りの良い音が響く。

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