第72話
「「「いらっしゃいませ」」」
店内に響く店員の声。
だけど、その中に俺も求める声はなくて。
もしかして、帰ってしまいましたか?
残念ですねぇと思いながら店内を見渡した。
空席が所々にあるという事は、忙しさのピークを過ぎたらしい。
「大木さん、いらっしゃいませ。店にお見えになるなんて珍しいですね」
ソムリエエプロンを着けた店員が駆け寄ってくる。
確か...彼は前沢大河だっただろうか?
「ああ、前沢君。これを返しに来ました」
と袋に入ったそれを差し出した。
「あ...わざわざすみません。何時ものように取りに伺ったのに」
受け取った袋を覗き込むとそう言った前沢。
「あ...いや。今日持ってきてくれた女の子に謝罪も兼ねて来たんです」
困り顔でそう言うと、
「謝罪ですか?暁ちゃんに何かあったんですか?」
焦った顔で聞いてきた前沢。
彼女は暁さんとおっしゃるんですね。
「えっ?暁ちゃんがどうしたよ?」
彼女の名前を聞いてホールに居たもう一人が駆け寄ってくる。
えぇっと...確か、彼は...。
「いや、進ちゃん俺も分かんない」
と彼に言うと前沢は俺を見る。
進ちゃん...あぁ、この彼は斉藤進一。
「あ、いえ。ビルに入る際に手違いがありまして、もしかして不愉快な思いをされたのではないかと思いまして伺っただけなんです」
大した事ではないと伝える。
大袈裟にされても困りますからね。
「ああ、なんだ。そんなことか」
斉藤はホッとした表情になる。
「暁ちゃんなら、余り細かいことは気にしてないと思います。彼女はサバサバしてますから」
と前沢が言うと、
「あ、だよなぁ?暁ちゃん、我関せずなところあるし。ても、どうしてもって、言うなら少し待ちますか?」
斉藤が俺を見た。
「えっ?いらっしゃるんですか?」
俺の気持ちは高揚する。
「今、材料が足らなくなって買い出しに言ってるんです。もうそろそろ帰るかはずなんですけど...」
と俺の背後のウインドウを見た前沢。
その時、ブオンブオン...ブロロロロ~と聞き覚えあるエンジン音が聞こえた。
「おっ、噂をすれば...」
帰ってきましたよと斉藤も俺の背後に目を向ける。
二人につられて振り向いたウインドウの外には、この間見たばかりの真紅のバイクが写し出されてた。
あぁ....益々面白くなりそうだ。
俺はゆるりと口角を上げた。
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美智瑠side
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