第70話
「たっだいまぁ~」
とドアロックを解除して入ってきたのは謙吾。
ヤレヤレ静かで良かったのに、煩いのが帰ってきましたね。
「お帰りなさい。どうでしたか?」
謙吾はあの夜に見たバイクを探してる。
真紅のNINJA250。
珍しいのに、中々見つからないようです。
「途中までしか目撃情報ねぇ」
落胆しながら、俺に隣に並ぶ謙吾がデスクについた。
あの日、謙吾は捕らえた連中からあのバイクの女性の情報を仕入れたみたいですが、本人が見つからないのなら意味がない。
なんでも、ここから3、4時間ほど山向こうの漁師町の連中だったとか。
この街を二度と見たくないって程に、お仕置きをして返したらしい。
それでいい。
あんな程度の悪い連中はこの街の来ることを許されない。
「どこに雲隠れしたんでしょうね?それとも、この街を出たのでしょうかね?」
デスクにだらりと項垂れる謙吾を見やる。
「うわぁ~マジかぁ。それ有り得るな」
大きな溜め息をついた謙吾に、
「捜索は結構ですが、仕事を疎かにするのは止めてくださいよ」
と冷めた視線を向ける。
「わ~ってるて。ちゃんとやりますよぉ」
ヘェヘェと言いながら書類を手にした謙吾。
手抜きをしたら、お仕置きしてあげますからね。
俺は黒い笑みを浮かべて、自分のPCに視線を戻した。
カタカタとパサパサと、俺と謙吾の仕事をする音が部屋に響く。
効率良くやってしまわないと、残業は困りますからね。
俺はこれからあのカフェに寄る予定です。
今日は夜の店の見回りもない日なので、この日を逃せません。
夕方も過ぎて、19時を回った辺りで黒いドアから紅葉が出てきた。
あのカフェの食器を持って。
カチャンと聞こえた食器の擦れる音に、俺は一人口角を上げた。
謙吾が立ち上がる前に、そそくさと立ち上がりこちらに歩いてくる紅葉に駆け寄った。
「それは俺が持っていきましょう」
「ああ。頼む」
俺の意図なんて知らない紅葉は迷いもなく差し出してくれる。
しめしめ、仕事もキリがいいし、そろそろ退出するか。
「今日はもう帰られますか?」
と聞いた俺に、
「ああ。お前達も店回りがない日ぐらい早く帰れよ」
そう言いながら部屋を出ていく。
「お疲れさまでした」
と俺は一礼する。
「おっつかれぇ~」
謙吾は呑気に手を振った。
閉まるドア、部屋はまた静かになった。
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