第69話

シャワーを浴び終えた紅葉が自室へと戻っていく。


俺は特には声掛しない。



あいつ、スエットしか履いてないし。


惜しげもなく肌を晒して、濡れた頭にバスタオルをかけてワシャワシャとかき混ぜながら歩いていく後ろ姿に溜め息を漏らす。


ここ、一応職場だからな?


本当、紅葉は自由人ですね。


色気を巻き散らかされても困るんですよ。




パタンと閉まった黒いドア。


今から食事を取るんだろうか?


あの出前の食器が今の俺には必要なのだが...どうしたものか。



いつもなら、一階の受け付けに置いておくと店の人が回収に来てくれる。


だけど、今回はお詫びと称して俺が持っていきたいんですよね。


是非とも。



あのカフェ店員にお会いしたいですし。


紅葉の言うオッドアイも拝見したいものです。




ワクワクするんですよ。


ちょうど、謙吾があのバイクを見て興奮していた時のような感覚だと思います。


あの時は、謙吾をバカにしてしまいましたが、俺までこんなに気分が高まるなんて。



あ~ぁ、楽しくて仕方ない。


もうあの時のバイクの女性なんて目じゃない。



今、うちの帝王を刺激するのは、あのカフェの店員だ。



単調な毎日に飽きていたんですよ。


謙吾じゃないですけどね?


是非ともここから色んな楽しさを広げたい。



もちろん、あのカフェの店員に下手な手出しはしません。


遊びやからかいなんて子供みたいな真似も。



そもそも、この街の暗黙のルールを破るつもりもありませしね。



ああ、さっきから言ってる暗黙のルールはなにか?ですか?




教えて差し上げましょう。



この街のあのカフェは、随分と古くから有りまして。


昔々、この街を牛耳っていた紅葉の父親が大変あのカフェのオーナーにお世話になったのです。


命を助けられたとのこと。


詳しいことは知りませんが、そう聞かされています。


それで、あのカフェは誰もが不可侵だと通達し。


それが今も残っているのです。



今ではこの街には紅葉の父親もあのカフェのオーナーも居ませんが、ルールは未だに健在なのです。



我々の様な輩は戒律を重んじます。



だからこそ、今も不可侵は続いているのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る