第66話

エレベーターを降りて緊張した面持ちでビルの入り口に向かう。


もしかしたらあの男から連絡が来て、警備の二人に捕まるかも知れないから。


平常心で足を進める。


自動ドアを抜けて、両側の二人に会釈して足を踏み出した。



「ご苦労様でした」


そんな言葉を背中に掛けられて、ギョッと振り返る。



「あ...っはい。失礼します」


変に思われないように会釈してその場を後にした。



あまりにもあっさりと帰された事に拍子抜けする。



本当、あの男なんだったのかな?



かなり歩いてから黒いビルを振り返る。


マジで気味悪い。



もうここの配達には絶対に来ない!と心に決めて正面に向き直るとカフェを目指して歩き出す。


あんな奴には関わりたくない。



ズンズンと不機嫌に歩く私に、時おり通行人が不思議そうに目を向ける。


そんなの構っちゃいらんない。



今の私はイラついてるのよ。












もう二度と行くはずのない黒いビルに、私は再び訪れる事になる。



自分の意思とは関係なく。



掛け合わせた歯車はクルクルと回り出す。

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