第64話
ドアまで黒いのか?
奥の部屋のドアの前に立って溜め息をつく。
ここまで来ると嫌みだ。
ま、何でもいいわ。
今度こそ配達して帰ろう。
トントントン、ドアをノックする。
「...入れ」
と声が聞こえた。
その他にも女性の声が微かに聞こえていて、中は一人じゃ無いんだと分かる。
「失礼します」
と言いながらドアを開けて衝撃を受ける。
「んっ...あぁ...やぁ...んぁ..」
聞こえてきたのは女の喘ぐ声。
そして目の前に広がる光景に更に衝撃を受ける。
「はぁ?」
間抜けな声が出たのは仕方ないと思う。
今、目撃してる光景は有り得ないから。
黒で統一された部屋の真ん中に黒いベッドがあって、そこには裸で男に股がって喘ぎながら一心不乱に腰を振る女。
男は女の腰をしっかりと掴んで下から女を突き上げてるんだ。
イヤイヤイヤ.....有り得ないから。
何か嬉しくて人の営みをみせられにゃいかんのだ。
自棄に冷静な自分に笑いそうになるけど。
人って極度のパニックになると、返って冷静になるのかもしれない。
「んんっ...アハ...あぁ...良い.もっと突いてぇ..」
女は男の与える快楽に完全に嵌まってるみたい。
とにかく、私は仕事をしよう。
「すいません。le lacrime di la dea(レ ラクリメ デイ ラ デア)です。料理はこちらで良いですか?」
目の前で繰り広げられてる行為を完全に無視する方向に決めた。
「ああ"?」
女の喘ぐ下で腰を突き上げる男と目があった。
あまりの色気にドキッと胸が跳び跳ねた。
シルバーアッシュの髪に隠された黒い瞳。
妖艶な美形の男は感情のない顔で女を抱いていた。
その行為を楽しむわけでもない男に違和感を覚えたけど、私は帽子の鍔を掴んで視界を遮るとドアの近くのテーブルに料理を並べた。
あの男の瞳は長く見ちゃダメだ...目に見えない何かに捉えられてしまうから。
って言うか、あの女もこんな無感情な男に抱かれて何が楽しいんだか。
「じゃ、失礼します。食べ終わった容器は何時ものように回収に来ますんで」
キャップの鍔を掴んで一礼すると男達に背を向けた。
女の喘ぐ耳障りな声は途切れることはない。
ギシギシとベッドのスプリングの音が響く部屋を私は後にしようと歩き出す。
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