第63話

しかも最上階とか、なによ?


中尊寺さんって社長?



一人分の料理の乗ったトレーを見下ろす。


豚のしょうが焼き定食。


残業をしてる人の夜食?



ま、なんでも良いけどさ。



見つけたエレベーターに乗り込んで最上階を目指す。



このビル、人居ないの?


ここに来るまで入口の人達にしか会ってないんだけど。



でも、ここって常連よね?


良く注文来てるもんね。


紘君が運んでるを何度か見たこと有るし。


毎回最上階まで運ばされてる訳?



まぁ、上得意さんなら、これぐらいのサービスありなのかな?


そんなことを考えながらぼんやりと動いていく回数表示を見ていた。




チンと軽い機械音が鳴ってエレベーターが止まる。


静かに両開きに開いたドアから外に出た。



「うわぉ、なんだここ」


思わず声が漏れた。



広いホールに一つだけあるドア。


しかもそのドアは観音開きの大きなドアで。



いやいやいや...やっぱ社長?



お金は有る所にはあるのね。



高級感丸出しのこのフロアーに度肝を抜かれた。



「あ、こんな事してる場合じゃない」


さっさと配達して帰んなきゃ。



ドアまで歩み寄るとインターフォンを押した。



『はい』


と聞こえた声に、


「le lacrime di la dea(レ ラクリメ デイ ラ デア)の者です。料理をお持ちしました」


と告げた。



『ああ、直ぐに鍵開けます』


という声と同時に目の前のドアがガチャリと開いた。



おぉ~自動で開くのか?



「失礼します」


と開いたドアから中へ入ると、そこには黒髪のインテリ眼鏡が居た。



「あ、いつもの方ではないんですね?」


「...あ、はい。今日は彼は休みです」


「そうですか。では、料理はあの奥の部屋にお願いします」


と部屋の奥を指差された。



いやいや、お前が預かれよ!



「へっ?」


「お願いしますね?」


見えない圧力を掛けられた。



チッ....ウザい。



「分かりました」


つっけんどんに返すと奥へ向かって歩き出す。



なんなのよ、ここの奴ら。


ふざけすぎだから。



沸いてくる怒り。


悶々としながら奥へと足を進めた。

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