第44話

「イタリア語で女神の涙ですか?」


とても素敵な名前のお店だと思った。


パパがイタリア系アメリカ人だったから、私も英語とイタリア語は少し話せる。



「正解。イタリア語が分かるのね?ますますうちに来て欲しいわ」


「あ、亡くなった父の影響で...」


照れ臭そうに言うと、


「そっか、同じだね。私は父親がイタリアかふれで、亡くなった母親の涙をイメージしてつけたんだって」


と笑った。


とても懐かしそうに、そしてとても哀しそうに。



どこか思い詰めた感じがしてしまい、思わず、


「あ、私は父親がイタリア系アメリカ人のハーフなのでイタリア語と英語が話せます」

 

と笑って誤魔化した。


私はまだ出会ったばかりのこの人の過去に触れることなんて出来やしないから。


そんなに器用じゃないんだよね。


だから、今は誤魔化すことを許してください。




「あらあら、私とは純度が違うわね」


と笑う恵美ちゃん。



いやいや、純度って何ですか?


意味分かりません。




「ま、とにかく採用よ。来てくれるわよね?」


かなり力の籠った瞳に断れるはずもなく、


「はい。よろしくお願いします」


と頭を下げた。





こうして家を出た次の日に、漫喫の化粧室で私の再就職先が決まった。


そして、そこのことにより、私の周囲は目まぐるしく変化していくんだ。









バイクで来てるといった私に、ノーヘルでタンデムに乗せろと騒いだ恵美ちゃん。



実年齢は32歳だった。


ブーブー言って引き下がらない恵美ちゃんにタンデムに積んでいた荷物とクマを持って貰い、リュックを背負ってもらってヘルメットを貸し与えた。



そして今、私はノーヘルで相棒を運転中。



ゆっくりと走るのはもちろん安全の為。


なのに、タンデムの彼女は、


「もっと走れぇ~」


と叫んでる。



いやいや、ほんと静かにしてください。


警察官に見つかっちゃうから。



しかも、道行く人達に変な目で見られてるからね。



恵美ちゃんを乗せたのは間違っていたと後悔しても

後の祭りだったのは言うまでもない。

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