第43話

「時給はそうね...千円。昼の1時から夜の9時頃まで。休憩は適当、一時間の食事休憩はあり。それから..まかないと住居付き。どうだ!」


と胸を張った大月さん。


かなりの好条件だけど...。



「...あの..えっと」


怪しい所じゃないとは思うけど、即決は決めかねる。



「あ、怪しい所じゃないからね。普通の喫茶店。ただ、うちは飲み屋さんやそこに勤める夜の住人達もよく利用してくれるの。配達なんかもしてもらうことにはなるけど、うちの従業員にバカな事をする人は居ないから」


「...あ、はぁ」


「でね?調理の私と、従業員が4人。全員男の子だけど皆良い子だから大丈夫だよ。何も心配せずにおいで。あ、ちなみに社宅は店の上にあるから、通勤時間は徒歩0分よ」


良いでしょ?と愛らしく笑った大月さんに圧倒された。



「あ...はい。良いですね」


戸惑いつつも、かなりの好条件に雇って貰おうかと思い始める。


知らない土地で全てが一からの私には願ってもない話。



「でしょでしょ。うちも暁ちゃんみたいな綺麗な子が来てくれると今以上に繁盛するわ」


「...いや、それはないと思います」


私は愛想の良い方じゃないし、客に好かれるかどうかは分からない。


前に勤めてた所はマスター達が高齢で、客層も年配の人が多かったから可愛がって貰っていたけど。



「あ、客商売は初めて?不安?でも、直ぐ慣れるよ。だから安心して」


大月さんはつぶらな瞳で訴えかけてくる。



「あ、えっと、前もカフェで働いていたのでそれは大丈夫だと思います」


「キャー!やったぁ。良いじゃん良いじゃん」


大月さん、ここはそんなに騒いじゃいけないと思います。


私の手を掴んで化粧室で跳び跳ねてる大月さんに苦笑いが漏れた。


だけど、この人となら働きたいって思えたんだ。




「あ...あの、面接とか受けさせて貰えますか?」


「あ...面接はもう終了。合格です」


私の手を離して指でOKマークを作った大月さん。



「へっ?あの、大月さん...」


どう言う事ですか?と言おうとしたら、



「改めて大月恵美です。恵美ちゃんて呼んでね?le lacrime di la dea(レ ラクリメ デイ ラ デア)のオーナーをやってます」


と敬礼した大月さん、改めて恵美ちゃん。



「...あ、お、オーナーですか?」


色々と驚きです。



「はい。オーナーシェフです。亡くなった父の残してくれた店を継いでるのよ。だから、私が人事権を持ってま~す」


と笑った恵美ちゃん。

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