第42話

「伝えたい事は伝えたい時に伝えなきゃ、一生言えなくなっちゃうから。だから、私は思ったことは直ぐに伝えなきゃ気が済まないの」


そう言った大月さんは陰りのある表情を見せた。


伝えられなかった何かをこの人は抱えたままなんじゃないだろうか?



「.....」


こんな時に気の効いた台詞を言えるほど、私にボキャブラリーはない。



「あ、ごめん。暗くならないで。ま、私が正直者だと伝えたかっただけだし。その瞳、絶対に隠しちゃダメだよ」


大月さんはおおらかに笑う。


さっき見た陰りなんて匂わせないほどに。



この新しい場所で、本当の自分と向き合うのも良いのかも知れない。


何も知らないこの人の言葉だからこそ、受け入れてみようかな?って気がした。



「...そうですね。そうします」


コンタクトのケースを開けずに元の場所にしまった。



「うんうん、そうしよう。って言うか、今更だけど、この街の人間じゃないよね?」


「あ、はい」


ほんと、今更だし。


しかも、話がコロコロとよく変わる人だ。



「遊びに来た?って訳じゃないよね?」


だけど、鋭い感性を持ってる人だと思う。



「あ...そうです」


「もしかして、ここに住む?」


「...あ、そのつもりです」


「だったら、住む場所と仕事探してる?」


質問する度に嬉しそうに口角を上げていく大月さん。



「あ~ま、そうです」


用意してここを出たら、住む場所と就活をするつもりだし。



「そっかぁ~」


自棄に嬉しそうだ。


しかも、頭の中で色々と考え中らしい。



そんな彼女を横目に顔を洗ってタオルドライする。


そのまま、軽く化粧もして髪を濡らしてワックスをつけた。


すると、いつものゆるパーマが髪の裾に復活する。


バイクに乗るとまたペタンコになっちゃうんだけどね。




「ねぇ!じゃあ、私の所に来ない?」


ヨシッと手を叩いた大月さんはおもむろにそう言った。



「へっ?」


この人は急に何を言い出すんだろうか?



「へっ?じゃなくて。社宅付きのカフェで働かない?」


「社宅ですか?」


それは願ってもない話だけど。


親御さんに聞かずにこの人が勝手に決めていい話なんだろうか?

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