第40話

「学生さん?あ、でも深夜にここに居たって事は未成年じゃないかぁ。でも、若いよね?」


大月さんは顎に手を当てて一人で喋る。



「私はねぇ。一応社会人。親のやってた喫茶店で働いてるの。繁華街の奥にあるんだけどね、結構流行ってるんだよ。あ、これでも調理師免許持ってま~す」


と敬礼する大月さんは聞いてもない情報をくれた。



大月さんを尻目に口を濯ぐとタオルで口元を拭う。



話の内容からして年上っぽいな。




私も自己紹介した方が良いのだろうか?


...う~ん、だよねぇ。



「ねぇねぇ、名前は?」


期待を瞳に宿してみるのは止めて欲しい。


やっぱり名前を聞きたいんだね。



「北川暁(キタガワアキラ)」


とだけ告げたら、


「あきらちゃん?どんな字?」


と興味を持たれた。



「あかつきって漢字」


「うわぁ、格好いいねぇ。私の周りにこんなカッコいい名前居ないよぉ」


ウフフと笑うから、


「ママも五稜郭のりょうで、稜って名前だし」


と思わず言ってしまった。



「うわぉ、親子揃って格好いいねぇ」


大月さんはますます興奮した。



「...そうですかね」


彼女と居ると煩いけど、胸が温かくなるのはなぜだろうか?


この人の持つ空気を意外にも嫌いじゃないと思う私が居る。



「そうだよぉ。私なんてさ、恵美だなんて超平凡だし」


残念そうに眉を下げた大月さん。



「女の子らしくて良いじゃないですか。私なんていつも男みたいだってからかわれてましたよ」


「えぇ!からかうバカが居るの?ふざけてるわね」


と本気で怒りだした。



この人は喜怒哀楽が激しいようだ。


だけど、人の為に怒れるなんて凄いと思う。



「あ...まぁ、慣れてます」


と苦笑いしたら、


「そんなの慣れなくて良いよ」


と力を込めて言われた。



フフフ...なんだか面白い人。



ゆるりと上がった口角、それを大月さんは見逃さなかった。



「うわぉ!暁ちゃん可愛い。ってか、暁ちゃんてカッコ可愛いよね」


とつぶらな瞳で言われた。



「...えっと..」


なんて返せば良いのだろうか?


そりゃ、ママ似でそれなりに顔は整ってる自信はあるけど。


そうですね?とか返すとナルシストみたいだし。


違いますよ?もちょっと違うような。



しかも、大月さんがグイグイ来るからちょっと戸惑っちゃうのよ。

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