第39話

食事を手早く済ませて、リクライニングシートに体を横たえた。


備え付けの毛布を株って、目を閉じる。


なんとか、一晩越せそうだ。



耳に着けたヘッドホンから聞こえるのは、今流行りの歌謡曲。


静かなバラードが、私を眠りへと導いてくれる。



ゆっくりと、だけども確実に眠りへと落ちていった。



 




次に目を覚ましたのは朝。


思いの外よく眠れたらしい。



眠い目を擦って、体を起こせばばさりと毛布が落ちる。



今何時だろう?


カウンターのデジタル時計は朝の8時を示していた。



そろそろ、起きなきゃ。



チクチクする目を何度か瞬きしながら、リクライニングシートから足を降ろした。



あぁ...ヤバい、コンタクト着けたまま寝ちゃったから、目がシバシバする。



一先ず顔を洗って、コンタクトを付け替えよう。


フェイスタオルと洗面セットを持って個室を出ると化粧室に向かった。



そこには私と同じ様に朝を明かしたらしい先客が居た。




この出会いがターニングポイントになることを、私は知らなかった。




肩までの茶髪を縦巻きカールした背の低い可愛らしい女性。


すっかり朝の支度は整ってるみたいだ。




「おはよう」


と明るく挨拶された。 


だけど、声が酒焼けしてるよ。



「...あ、どうも」


会釈だけして彼女の隣に並んだ。


洗面台にタオルと洗面セットを置いて支度を始める。




「貴方も泊まり?」


と聞かれ、


「あ、そうです」


と返す。



基本、他人が苦手な私は話し掛けてくれる彼女みたいに愛想よくは出来ない。




「そうなんだぁ。私も。昨日飲みすぎてて気が付いたら終電逃しちゃってた。あんまり酔って絡むから友達に置いてかれちゃった」


エヘッと舌を出した彼女は可愛いけど、言ってることは可愛くない。


この人は社会人なんだろうか?



「あ、そうなんですか」


彼女の飲みすぎた話を聞かされてもどう答えて良いか分かんないし。


歯磨き粉を着けた歯ブラシでシャコシャコ歯を磨く。




「私、大月恵美(オオツキエミ)。貴方は?」


「んん?」


えぇ!ここで自己紹介?


ってか、私、今歯磨き中です。


ギョッとしつつも、歯磨きを銜えたまま大月さんへと顔を向けた。



「ああ、ごめん。歯磨き中かぁ」


アハハと楽しそうに笑った大月さん。


朝からテンションの高い人だわ。

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