第22話

困った...実に困った。



今は引き返すわけにはいかない。



せめて暁ちゃんが町を出るまでは見つからない様にしてやりたい。




「パパ、早くUターンしてよ」


振り向いたまま動きを止めた俺を睨む泉。



「こ、ここまで来て引き返すのか?予約の時間に間に合わなくなるぞ」


何としてもUターンは避けたい。



「あら、それは困るわね。泉ちゃんスマホならママのを貸してあげるわよ」


妻はバッグからスマホを取り出して泉に差し出す。



「んもう!ママのじゃダメ。LINEしたいんだもん」


要らないと顔の前で手を振った泉は膨れっ面だ。



「一日ぐらい辛抱したら?予約に遅れるのは困るし」


「嫌よ、ママ。料理をupしたいんだもん」


自分の娘ながら、なんとも我が儘で困る。


どうにか、この場を乗りきらないと。




「ママのスマホで写真だけ撮って、帰ったら赤外線で移したらとうだ?それからLINEにupすれば」


とした提案に、


「リアルタイムじゃないと意味ない」


と聞き分けの無いことを言う。



「いや、でもなぁ...」


「つべこべ言わないで戻ってよ。ここに停まってたって時間の無駄なのよ。パパってグズなんだから」


娘にここまで言われる俺はなんなのだろうか?



「貴方、戻ってやって。少しぐらい遅れてもなんとかなるわよ」


妻はやはり娘の味方だ。



「.....」


どうすればいいんだ。



「パパ!」


「貴方!」


二人に名前を叫ばれて、仕方なくブレーキを踏んでドライブにシフトを入れた。



「分かった。Uターンしよう」


走らせて、Uターン出来るところを探してると思わせよう。


分岐点から少しでも東へ向かいさえすれば良い。




だけど、そんな俺の陳腐な考えは打ち砕かれる。



「ちょっと、パパ、なに進んでるのよ」


「そうよ。対向車も無いんだからここでUターンしなさいよ」



泉と妻の罵倒が飛ぶ。



「いや...しかし、ここはUターン禁止だ..」


「警察なんて居ないじゃないよ。ほんとパパってグズね」


泉はそう言いながらミラー越しに俺を睨む。




モタモタしながらも、車を前に進める。



少しでも...少しでも、彼女から離れられる様に。




後少しで分岐点だ。



そう思ったときだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る