第23話

聞き覚えのあるバイクのエンジン音が聞こえてきた。



まだ遠いが確実にこちらにやって来ている。



あれは、暁ちゃんに違いない。




俺は咄嗟にアクセルを踏み込んで東西の分岐点まで進むと、急いで東へ曲がった。



「パパ、何してんのよ!」


と泉の怒鳴り声。



「貴方、なんなのいったい!」


妻の怒鳴り声。




後部座席から飛んでもない怒りのオーラが流れてきたが、俺はアクセルを踏み続けた。



少しでも遠くへ。



暁ちゃんが妻達に見つからない様に。




ブオンブオン.....ブロロロ~。


低い重低音が聞こえてくる。



何事も無く彼女が西に向かうのひたすら願った。




だけど.....そう上手くいかないらしい。




「ねぇ、ママ、あの音って」


俺に怒りを向けていたはずの泉がバイクのエンジン音に気づいて振り返る。


リアウィンドウに釘付けになった泉の視界。



「あら?お友達?」


妻まで振り返ってしまった。



ダメだ、この距離では東に向かう為に曲がる暁ちゃんのバイクが見えてしまう。



おれの心臓はあり得ないほどに脈打ってた。


それでもアクセルを全開に踏み続けた。



出来るだけ遠くへ、泉が誰のバイクか判別出来ないぐらいに。



泉はエンジン音の正体を確かめようとリアウィンドウに釘付けになってる。




「貴方、いつUターンするの?こんなスピードで走ってる場合じゃないでしょ。いい加減にしなさいよ。今夜の食事会だって貴方の提案でしょう?早く戻って向かいましょうよ」


後ろを向いたまま反応の無い泉から、運転席の俺へと興味を向けた妻は運転席の座席を掴んで俺に説教を始める。

  


「.....」


俺は妻を無視して無言のまま両手でハンドルを握り締めてアクセルを踏み続けた。













「あ、あのバイク...」


泉は視界に暁ちゃんのバイクを捉えたらしい。



「...チッ」


小さく打った舌打ち。


バックミラーで道を曲がって東に向かう暁ちゃんのバイクを確認した。



遠くへ.....追っ手がかかる前に遠くへ逃げてくれ。







 ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

泰二side

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