第18話

自宅に戻ると、伯母さんと泉は気味悪いぐらいに着飾ってた。



「あら?帰ってきたの?今日は晩御飯は作らなくても良いわよ。私達、隣町のエッフェルホテル行くから。ま、暁は連れてかないけどね」


良いでしょう?なんて自慢げに言う泉に、



「ああ、そう」


と愛想無く返して泉の横を通りすぎる。



「そんな高飛車で居られるのも今のうちよ」


私の耳に囁く様に告げた泉は意地悪く口角を上げた。



バカね...そんなことすれば、何かを企んでるってバラしてる様なものなのにね?


浅はかすぎで笑える。



「.....」


無言で通り過ぎて離れに向かう私の背中に伯母さんの声が飛ぶ。



「明日はアルバイトが終わったら真っ直ぐに帰ってきなさいよ。晩御飯の準備を早めにしてほしいからね」


叔母さんは取って付けたような理由で、自分達の計画通りに行くように私を誘導する。



「分かった」


振り返らずにそう言ってその場を離れた。



背後でニヤニヤ笑ってるであろうバカな親子に小さく溜め息をついた。




伯父さんは計画通りに二人を連れて出掛けてくれるらしい。


だったら、私はその間にここを出ていかなきゃね。



離れの自室に入ると、リュックと大きめ鞄を取り出して荷物を詰め始めた。


バイクだから必要最低限に押さえなきゃ持ってけない。



下着や着替えは必ず詰めて、嵩張るものは置いてくしかない。


アルバムからママとパパと一緒に撮った写真を数枚抜き取って手帳に挟み込む。




「あ、それとこれは...持ってかなきゃね」


手を伸ばして抱き締めたのはヌイグルミ。



パパが最後にくれた白いクマのヌイグルミは置いてけない。


だって、一人の寂しさを今までこの子が癒してくれたんだから。



バッグと一緒にタンデムにくくりつけよう。



クマ子をキュッと抱き締める。



「あんたは連れてくね」


一人で頑張らなきゃいけないから側に居て。



リュックの底にママから貰った通帳と封筒を押し込んで、その上から服を詰めた。



「これでよし」


ドアの側にリュックと鞄、いつものポーチを置いてクマを並べた。



少ない引っ越しになるけど、必要な物は辿り着いた先で用意するしかない。




ラジオをかけながら、叔母さん達が出掛けるのをじっと待つ。


開け放った窓から聞こえる泉と叔母さんの声も、もう聞くことが無くなると思うと、ほんの少しだけ寂しく感じた。



私はもうここの戻ることはないだろう。



見渡した部屋には五年間の思い出が詰まっていた。

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