第17話

「ありがとう、ママ」


私は通帳と封筒に戻した委任状を胸に抱く。



「ママの事は何も心配要らないわ。だから、自分の事だけを考えて幸せを見つけてちょうだい」


涙ぐむママにしっかりと頷いた。



「ん...分かった」


「フフフ...聞き分けの良い子で助かるわ」


ママはホッとした顔で微笑んだ。



これ以上ね?ママには心労をかけたくないから、私はママの思うようにするよ。




この町を離れるんだね.....。


パパとの思い出のあるこの町を。



ママ一人を残して行かなきゃいけないのが心残りだけど、必ず迎えに来る。


今は言わないけど、自分の生活をキチンと整えてママに合う病院を探して、絶対に迎えに来るし。



心に決意を決める。










夕方まで何時ものようにママと他愛のない話をした。



さよならしなきゃいけないなんて思わないぐらいに笑顔で過ごした。



帰る時だって「また来るね?」「うん、また来てね」なんていつもと変わらない別れだった。




泣きそうになるのを我慢して病院を後にした。



病院の外に出て、駐輪場で愛車に跨がったまま、いつものようにママの病室の見上げた時、ようやく涙を流せた。



今度はいつ会えるかわかんないね。


寂しいよ、ママ。


本当はこの町を出たくない。



だけど、こんな小さな町じゃ隠れても直ぐに見つかっちゃう。


叔母さん達の悪巧み通りに貝塚に引き渡されて、飼い殺しにされるなんて真っ平だもん。



寂しくても逃げるよ。


ママの言う通りに、新天地を見つけて幸せを見つけるから。


だから、ママも元気で居てね?



「ママ...」


薄暗くなった景色に私の声は溶け込んでしまう。



ヨシ....行こう。


必要な物だけを纏めて荷物を作らなきゃ。



伯父さんがくれたチャンスを逃さずにあの家を出る。




胸元まである黒髪を後ろで一つに束ねると、ヘルメットをスッポリと被った。



キーを回してエンジンをかける。



低い重低音が体に伝わる。



行くよ、相棒。


どこまでも一緒だよ。


紅いボティをポンと叩いてからハンドルを握りしめると、ゆっくりアクセルを回してバイクを出発させた。

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