第11話

「良かったわ、安心した」


ママがそうやって笑ってくれるのが一番なの。



「心配かけないようにがんばります」


冗談めかしてフフフと笑った。



ママには穏やかな時間を過ごして欲しい。


煩わしい事なんてママには必要ない。



パパが亡くなってから、随分と苦しんだんだもん。




だから...ママには言えないね?


伯母さんが貝塚のおっさんとの縁談を進めてるだなんて。


伯母さんの前では強がったけど、ママに言えるわけない。


心労をかけたくないもん。


自分で何とかするしかないかぁ。



貝塚のおっさんはこの街を牛耳ってるもんねぇ。


ちょっと...いや、かなり厄介だなぁ。



この街を出てくしかないだろうけど、ママを残してくなんて出来ないよ。




私の生けた花を見ながらニコニコ笑うママを盗み見る。



ママ...私どうすれば良いのかな?



バレないように小さな溜め息をついた。





「今日も天気が良いのね?」


花から窓の外へ視線を向けたママ。



「うん。それに凄く暖かいよ」


「もう五月だものね」


「ん、五月だね。夏もあっと言う間に来ちゃいそうだね」


「時が立つのは早いわねぇ」


遠くを見つめるママの目は少し悲しそうな気がした。



パパを亡くして5度目の夏がもうすぐやって来る。





「あっという間に年取っちゃうね?」


エヘヘと肩を竦めた私を見て、



「んもう、暁ったら。おばあちゃんみたいな事言わないのよ」


とママが笑う。



「だってぇ」


と唇を尖らせた私に、



「暁は少し若さが足りないわね」


とママが言う。



「えぇ~っ!十分若いし」


と胸を張った私を見てママはコロコロ笑う。



「見かけは若いけど、中身が少し年よりくさいわよ」


と顎に手を当てて首を上下させて一人で納得するママ。



「ちょ、ちょっと、それ酷いし」


眉をへの字に曲げた。



「フフフ...冗談よ」


優しい瞳で私を見つめるママに涙が漏れそうになった。



ママのこの笑顔を守りたい。


私ね、その為なら何でもするよ。







トントントン、誰かが病室のドアをノックする。



「あら?誰かしらね?」


不思議そうなママの顔。


今の時間帯は看護師さんは来ないはずだしね。







この訪問者によって、全てが大きく動き出すんだ。

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