第10話
「マ~マ、具合はどう?」
病室のスライドドアを開けて、そこから顔だけひょこっと出す。
「いらっしゃい、暁。体調はいつもと変わりないわよ」
個室の窓際のベッドに上半身を起こしたママが、ピンクのカーデガンを羽織って座ってこちらを見てる。
その顔は今日も青白い。
病室に籠りっきりだから、日に焼けていないのは仕方ないけど、目の下にうっすらと見える隈が痛々しく見える。
それだけで、体調は芳しくないと分かる。
「遅くなってごめんね?」
そう言いながら、さっき一階の売店で買ったばかりの花を持って病室へと入る。
「ううん、良いのよ、毎日来なくても」
ママは儚げに笑う。
「私が会いたくて来てるんだし」
なんて言いながら、ママのベッドの側まで歩いていく。
窓際の花瓶を取って、部屋に備え付けの洗面所へと向かう。
「ありがとうね、暁。いつもごめんね」
ママのそんな声を背中で聞きながら、持ってきた花を花瓶に入れ換える。
花が大好きなママだから、いつもお花を飾ってあげたいんだよね。
外に出られないママの為に、私が出来るのはこれぐらいだから。
「私が好きでしてるんだし」
フフフ...と笑いながら水を入れ換えた花瓶を持って窓際へ戻る。
「暁の持ってきてくれる花はいつも綺麗ね」
「良かったぁ。喜んでもらえて」
そんな風に言われたら嬉しいなぁ。
ママが喜んでくれるのが一番だもんね。
花瓶を元の場所に置くと、ベッドの側にある丸椅子に腰を下ろした。
「アルバイトは慣れた?」
心配そうに聞くママに、
「うん、慣れたよ。もうそろそろ一ヶ月経つし」
と答える。
高校卒業を間近にふらりと立ち寄った病院近くのカフェが今の私のアルバイト先。
40代ぐらいの夫婦がやってるアットホームなそこは、とても居心地が良い。
何度か通ううちにアルバイトを探しているならうちに来ないか?と誘ってくれたんだ。
常連さんもとても話しやすい人達ばかりで、私は直ぐにあのカフェに馴染むことが出来た。
それに病院の近くだから、ママに何かあれば駆けつけられる。
時間の融通だってつけてくれるんだ。
今の私には願ってもないアルバイト先である。
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