第39話

「考える余地なんて全くない。私は君を知らないし、君も私を知らないでしょ?」


なのに、好きだなんて軽々しく言わないで欲しい。



「うん。だから、これから知って欲しい」


「ごめん、無理」


「じゃあ、こうしよう。これからお互いの事を話していこうよ」


なにが、じゃあよ。


この前向きすぎる彼を、誰か何とかしてよ。


助けを求めて千里に視線を向けたら、苦笑いを返された。


ダメだ、助っ人にならない。



「あのね、聞いてた? 無理なの」


強い口調で言う。



「僕も諦めるの無理だから」


爽やかな少年は、綺麗に笑う。


及川君は、多分イケメンの部類に入るんだろうな。


私にはどうでも良いことだけど。



「私の何を知って好きだとか言うのか知らないけど。私、人を思う気持ちが一番信じらんないんだよね。だから、こう言うの止めて迷惑」


抑揚のない声で淡々と話して、及川君に背を向けた。


話しててもきっと押し問答が続くだけだ。



「あ、待って、篠宮さん」


背中に追いすがる及川君の声を無視して歩き出す。


パタパタと後ろから聞こえてきたの千里の足音。



酷い女だって嫌いになってくれればいい。


明るい太陽の下が似合いそうな彼に、私は似合わないよ。


今度は、自分に合う可愛い彼女が見つかると良いのにね? 他人事の様に思いながら廊下を進んだ。



周囲から突き刺さる視線に、ジロリと視線を返す。


数人の女の子達がこちらを睨み付けていた。



なんなのよ、もう。


こんな敵意向けられる様なことしてないけど。


苛立ちを隠さずに、冷たい視線で一人一人の顔を認識するように見据えていく。



慌てて視線を逸らしていくなら、初めから睨んでこなきゃ良いんだ。


本当、もう・・・なんなの。





「響ちゃん、ごめん」


私が躓いたりしなきゃ・・・申し訳なさそうに眉を下げたのは追い付いてきた千里。


「いいよ、仕方ないし」


今回はたまたま避けられなかっただけで、入学して何度か告白は受けてるし。


さっきみたいに食い下がられたことは無いけど。



冷たくあしらったら、大抵諦めてくれるんだ。


及川君は、相当イレギュラー。



「だいぶ目立ってたわよ」


「あいつ、叫んでたもんね」


本当、面倒なことをしてくれた。


さっきから、あちこちから視線刺さってるんだよ。

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