第38話

さっき決めたばっかりの作戦を遂行するべく、足を進める。


なのに、イレギュラーは起こる。



「きゃあ」


千里が教室のドアのサッシに躓いた。



マジか・・・。


背中で千里を受け止める事になった私は、少しだけ前につんのめった。



「大丈夫? 篠宮さんと委員長」


ほら、さっき声をかけてきた男子が駆け寄ってきた。




「ごめんなさい」


千里の小さな声が背中越しに聞こえた。



バッドタイミングだよ、千里。


はぁ・・・仕方ない。



千里が背中から離れたのを確認して振り返る。


「問題ないわ」


私を見ていた彼に素っ気なく言う。



「そ、そっか、良かった」


スポーツ少年みたいな爽やかな笑みを浮かべた男子。


この彼って誰だろう?



正直クラスメートなんて覚えてないんだよね。


面倒臭いから。



私を見て頬を赤くしてるって事は十中八九、告白って感じ。


愛なんて信じてない私にとって、告白なんてものは迷惑以外の何物でもないんだよね。



「何か用?」


気だるく前髪をかき揚げた。


面倒だから、早く済ませて欲しい。



千里は、私と彼を心配そうに見てる。


教室の入り口で立ち止まってるものだから、廊下に居る生徒達も何かあったのか? と興味津々だ。



あぁ・・・野次馬がこれ以上集まる前に、終わらせないと。


悪目立ちするのは好きじゃないんだ。



「あ、あの・・・僕」


モジモジしてないでさっさと話して。


第一、僕ってなんなの。


真面目そうな彼が、どうして私なんかに声をかけようと思ったんだろうね。



「なに?」


「知ってると思うけど、僕、及川稔(おいかわみのる)です」


「・・・ごめん、知らない」


私の回答に悲しそうに眉を下げた及川君。



「じゃ、じゃあこれから知って欲しい。僕、君が好きなんだ。良かったら付き合ってくれないかな」


及川君は中々打たれ強いらしい。


一気に告白までして、満足そうに微笑んでる。



周囲が彼の告白にざわめいてる。


ヒソヒソ話す女子生徒達の視線に、大きな溜め息が漏れた。



「ごめん、誰とも付き合うつもり無いんだ」


考えること無く即答した私に、


「少しでも考えて欲しい」


さっきまでのおどおどした様子もなく強い意思の籠った瞳で見つめてきた及川君。



ないな・・・無いよ。


真面目そうで、汚ない物なんて見たこともない目をしてる彼は、綺麗すぎる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る