第21話

「響ちゃん、じゃあ、あとよろしくね」


私がエプロンを着けてカウンターに入ると、社長は隣の本屋へと出掛けていった。



笑顔で手を振って去っていった社長の背中に溜め息をついたのは言うまでもない。


うちの社長、年齢は50歳を越えてるけど、ノリが軽いのよ。


女子高生並みにね。



本気で構ってると疲れるので、ここに勤めて3日目で適当にあしらうことを覚えた。


素っ気なくされるのが、ツボらしく何故か喜ばれる。


根はいい人だけど、社長は変なおじさんだ。




一人きりの店内、客は居ない。


カウンターの中にある椅子に腰かけて、読みかけの小説を読み始める。


今の時間帯、レンタルショップは暇だ。



私専用の椅子を用意してくれた社長に感謝。


『お客さん居なかったら、暇潰しに雑誌や小説読んでても良いからね』


と隣の本屋から若者向けの小説や雑誌を持ってきてくれたのも社長。


ゆるゆるなバイト先に、すっかり馴染んでる。




ピロリロリン・・・奇妙な電子音と共に自動ドアが来客を知らせる。


栞を挟んで本を閉じるとカウンターの下にしまう。



「いらっしゃいませぇ」


誰を見るともなしに張りのない声で言う。


店内に入ってきたのは、3人の女子高生。


短いスカートに派手な化粧の3人組は、カウンターを見ないまま通りすぎる。



彼女達が向かったのはレンタルCDの陳列棚。


こじんまりとした店だけど、意外な事に若者向けの音楽を置いてる。



「この曲好き」


「私も私も」


「借りて帰ろうかな」


さっきまで、静かだった店内が賑やかになる。



私はあくびを噛み殺し、ぼんやり彼女たちを見つめる。



「そう言えば、今週のウルフのパレード見に行く?」


「行く!」


「もちろん」


「瑠偉君見たい」


「私は豪(ごう)君」


「みっ君が好き」


「でも一番は・・・晴君」


「「だよねぇ」」


キャッキャと騒ぐ3人。



ここでも、話題はウルフなんだ。


暴走族なんて何がいいのか。


一番人気の晴君とやらは、相当な男前なんだろうね。



まぁ、私には関係ないけど。

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