普通の日常

第13話

ー晴成sideー




敵対勢力の連中に、不意の襲撃を受けて逃げ込んだ公園で俺は同じ瞳をした女に出会った。


寂しさと言う闇を宿した瞳を見た瞬間に、どうしてだがほっとした。



戦った相手の血で薄汚れている俺を、女は自宅マンションへと連れてきてくれた。


俺を見て媚を売るわけでもなく、面倒くさそうにしながらも空腹の俺に自分の為に買ってきたはずの食い物を差し出した。



「これ、食べて良いよ」


タオル持ってくるから、そう付け加えて女はバスルームらしいドアへと消えていく。


ぐるりと見渡した部屋は広い1LDK、女以外に住人は居なさそうだ。



独り暮らしの部屋に男を連れ込むとか、あの女の危機感は大丈夫なのか?


女の親切で助けられた俺が言うのもなんだけどな。



フードの下にどんな顔を隠してるんだろうか。


薄暗い公園で目が合った後は、女は俯き加減でパーカーのフードで顔が隠されてたからな。



と言うか、俺も得体の知れない女についてきたって事だな。


女の危機感とか心配してる場合じゃねぇわ。


薄汚れた真新しいソファーに座るのは気が引けたので、テーブルの側のフローリングに腰を下ろした。





ガチャリとドアが開いて女が戻ってくる。



「あれ? 食べないの?」


与えられたままの状態で買い物袋を持っていた俺を見て不思議そうに首を傾けた。



「・・・・・」


女の質問に答える事が出来なかったのは、フードを外した状態の女に見惚れてしまったから。



胸元まである長い茶髪に、ぱっちりした二重、女の愛らしさを助長させているのは時々口元に見える片方の八重歯。


女には、綺麗より可愛らしいがもっとも相応しい言葉だと思った。



「どこか痛むの? やっぱ怪我してた」


女は心配そうにそう言いながらこちらへとやって来る。


「あ・・・いや、あ、足首をちょっと捻ってるぐらいだ」


「そう、なら、後で湿布でも持ってくる。はい、これで顔拭いたら」


女がホッとした様に微笑んで濡れたフェイスタオルを差し出した。


ドキッとする。


胸の奥がざわざわして、なんだか居心地悪かった。



「あ、おう、悪りぃ」


買い物袋をテーブルに置いて、タオルを受けとると両手で顔をごしごし拭いた。


お湯で絞ってきてくれたらしいそのタオルは、温かくてホッとした。

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