第12話

うわぁ、大きい。


180㎝は越えてるんじゃないかと思える背丈の彼を見上げる。


「んだよ?」


アンバーの瞳が怪訝そうに揺れる。



「あ・・・大きいなと思って」


160㎝ある私でもかなり見上げないとだし。



「ふっ・・・」


彼は笑みを漏らす。


「なっ・・・」


ヤバい、かっこよすぎでしょ。


目の前の綺麗な男は見濡れの癖に、笑みさえもかっこいい。


トクンと跳ねた胸。


このままいちゃダメだと本能が警鐘を鳴らした。


「じゃ」


そう言って踵を返して、帰ろうとした。



「ヤベェ」


聞こえた彼の声と、ゆっくりと倒れてきた大きな体。



「はぁ?」


驚いた声を上げた私に覆い被さってきた大きな影。


やっぱりどこか怪我してるの?



「・・・・・」


「ちょ、ちょっと・・・」


倒れてきた彼に抗議の声を上げた瞬間、耳元で低い声が聞こえた。



「・・・腹減って、動けねぇ」


「・・・はぁ」


漏れ出た大きな溜め息と、諦めにも似た感情が沸き起こる。



「・・・・・」


「少しだけ、歩ける?」


「・・・ああ」


「じゃ、肩貸すから、ちょっと歩いてくれる」


「・・・分かった」


「うち、そこだから」


すぐ近くに見えるマンションを指差してから、胸元で組まれた彼の手をパンパンと叩いて、解放を促すと彼の隣へと移動した。


彼の片方の腕を自分の肩にかけて、ゆっくりと歩き出す。



仕方ないから、うちに連れて帰ろう。


ご飯食べさせて、彼の知り合いに迎えにいてもらうようにすれば良いや。


この時の私は、彼が危険な存在だとか、この後面倒な事に巻き込まれちゃう事とか、考えなかった。



ただ、一人の寂しさと心細さが分かるから、どうしても見捨てる事なんて出来やしなかったんだ。






カラカラと音を立てて運命が回りだす。


それは誰かの意思ではない。

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